現在の法制下では、戦闘行為にはあたらない補給や医療支援、井戸掘削などであっても、海外で戦闘行動をしている外国の軍隊には一切提供できない仕組みになっています。これは1980年代からずっと日本固有の問題として議論されているものです。近年ではここにサイバー攻撃や宇宙空間への対処も入ってきて、もはや「戦闘地域」と「非戦闘地域」を区分けするどころの騒ぎではないというのが実情です。
とりわけ被害が増えているサイバー攻撃では、政府を麻痺させて組織的抵抗力を奪うだけでなく、銀行決済の混乱や電力供給の停止など、国民の生活そのものに打撃を与える恐れがあると指摘されています。かつては隣国のミサイル攻撃に対する「抑止力」として迎撃用パトリオットミサイルの実効性の有無が議論されましたが、いまや真の脅威は戦場なき戦争、すなわちサイバー攻撃こそが「そこにある危機」なのです。
日本人の生命や財産を守るべき不測の事態に自衛隊を投入できないことは、日本人として慙愧の念を抱かざるを得ません。憲法は守るのに日本人を守らないのでは本末転倒であります。今後、どうやって日本と日本人を守るのか。王道である憲法改正も含めて、つぎはぎではない体制について議論が求められます。
もちろん、安保法制への懸念として「日本を戦争する国にしてはならない」「平和を愛する国であり続けたい」という気持ちをもつことはわかります。私も息子たちを戦争に送るようなことは絶対にしたくありませんし、日本の同胞が再び悲惨な戦争の犠牲になることは許せません。その一方で、迫りつつある中国からのサイバー攻撃や東シナ海での緊張に、日本は何ができるのか。悲劇を繰り返さないためには、アジアの安全をどう構築すべきなのか。さらには世界の平和に対してどんな役割を担うことができるのか。今回の安全保障関連法案の問題を契機に、政府はよく内容を説明し、世論を喚起したうえで、国として責任ある対応をとる必要があるでしょう。
※1:「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」(国連憲章51条)
※2:内閣官房は「平和安全法制等の整備について」という特設ページで詳細を説明している。 http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/housei_seibi.html