こうして2009年9月にスタートしたのが、「イオンのお葬式」だ。葬儀自体をイオンが取り仕切るのではなく仲介業に徹する。同社に葬儀を頼むと「特約店」と呼ぶ全国約500の提携葬儀社に委託して、その業者が葬儀を請け負う。葬儀の進行は、葬儀社とイオン双方が持つタブレット型PCにより、リアルタイムで把握できるという。

ところで、一口に葬儀といっても多くの儀式がある。仏式では、遺体を拭き清める(1)湯灌から始まり、(2)納棺→(3)通夜→(4)葬儀・告別式→(5)出棺→(6)火葬→(7)収骨となるのが一般的。

だが高齢化や核家族化が進み、時代の変化もあって葬儀へのニーズは多様化している。身内中心で故人を見送る「家族葬(密葬)」や、通夜や告別式をしないで火葬のみを行う「直葬」を選ぶ人が多くなった。長年、通夜の翌日に告別式を行う形式が続いたが、通夜を行わない例も増えた。親族や友人も高齢化が進み、参列できないケースも目立つ。

イオンはこうした消費者意識の変化を取り込み、直葬に当たる「火葬式」から比較的大規模な「家族葬セレクト」まで、5つのプランを中心に提案している。最も需要が多いのは「家族葬」で、東京近郊では約72万円で実施できる。

この葬儀の特徴は、「価格も品質もイオン基準」ということ。「専門業者は一切入れずに社員の素人目線から、葬儀で『こうしてほしい・してほしくない』内容を140項目の『葬儀サービス品質基準』として定めました。趣旨に賛同いただいた葬儀社を特約店としてお願いしています」と説明する広原氏。

項目の中身は、「儀式では白手袋を着用」「遺体の変化への対応の仕方」「お別れに使う花が地面に落ちた場合は捨てる(絶対に拾ってお棺に入れない)」といった内容だとか。項目は年に一度差し替えて、顧客ニーズの変化にも応えている。当初は「依頼件数が少ないわりに要求が細かくて面倒くさい」と葬儀社から反発も受けたが、徐々に理解が深まった。