自宅PC回収で労災の証拠隠滅を図る

しかも、対象者は入社2~3年目の社員も対象になる可能性もある。

ある損害保険会社では代理店業務や保険金支払業務の担当者は原則として4年で裁量労働制の適用を迫られる。中には入社2年目で適用される社員もいるという。聞けば、みなし労働時間は8時間。つまり残業代分の手当は出ないそうだ。

ちなみに先の調査では企画業務型裁量労働制(B)の対象者の年収は300~500万円未満の人が13.3%も存在する。300万円と言えば20代前半の平均年収に近い。

▼経営者はわざと労働時間の記録をしない

今回の改正で新たに営業職(C、D)などが追加されると、前述したように適用対象者が大幅に増えるだろう。また、裁量労働制の対象者は普通の労働者と違い、経営者の労働時間把握義務が免除されるので実労働時間の記録も残らない。その結果、過労死が増えるだろうと指摘するのは過労死訴訟に詳しい川人博弁護士だ。

「これまではサービス残業をしている労働者の過労死が多かった。高度プロフェッショナル制度や裁量労働制などの残業規制撤廃型ではサービス残業=違法残業が合法化され、よりいっそう長時間労働に拍車かかる危険が大だ。また、過労死が発生しても、労働時間の証明が困難なために、現在以上に労災認定を受けることが困難になる危険性がある」

川人弁護士はとくに若者への悪影響が大きいと指摘する。

裁量労働制適用者の過労死事件も発生している。今年3月、専門業務型(A)の市場アナリストの男性(47歳)が三田労働基準監督署で過労死として労災認定された。

男性のみなし残業時間は月間40時間だったが、実際は発症前の6カ月間の平均残業時間は108時間を超え、発症前1カ月は133時間を超えていた。

過労死を発生させた会社は労災隠しに走るケースが少なくない。この事件でも男性が死亡した翌日に会社の人間が自宅まで訪れて仕事に使っていたPCを回収にきて証拠隠滅を図ったという。

実際の労働時間を特定するために遺族側代理人が会社のPCの開示を要求しても拒むなど立証作業は困難を極めた。

裁量労働制対象者の過労死認定は極めて異例である。法案が成立すると2016年4月に施行される。大量の労働者が適用されることになるが、仮に過労死しても労災認定が受けられない可能性もあるのだ。

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