「残業代ゼロ」企業の半分は「法令違反」
では、実際にどうなのか。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査(2014年6月発表)を元にすると、半数近くの労働者の企業は法令違反を犯していることになる。
出退勤時間は本来自由であるが、現行の専門業務型(A)の42.5%、企画業務型(B)の49.0%の労働者が「一律の出退勤時刻がある」と回答。
さらに専門・企画型(A+B)の40%超の労働者が、遅刻したら「上司に口頭で注意される」と回答している。時間管理の自由がないとしたら、恐れるのは長時間労働である。同調査では裁量労働制適用労働者と普通の労働者と比較している。
それを見ると、月間労働時間が200時間以上250時間未満の労働者は専門業務型(A)40.9%、企画業務型(B)38.6%となっている。
月間法定労働時間を160時間(40時間×4)とすれば、半数近くが40~90時間の範囲で残業しているのに対し、普通の労働者で残業200時間以上~250時間未満の人は26.5%。4人に1人であり、裁量労働制の適用者のほうが長時間働いているのだ。
▼残業代ゼロになると労働時間が長く
会社にとって裁量労働制導入の最大の狙いは残業代の削減だ。
以前、SE(システムエンジニア職)に導入した中堅電機メーカーを取材したことがある。同社はみなし労働時間を9時間とし、残業代に相当する月間25時間分の裁量労働手当を支給。同時に成果主義賃金制度を導入した。残業代を削減する代わりに、成果で給与にメリハリをつけることで社員のやる気を喚起しようという狙いだったが、3年後に裁量労働制を廃止した。
なぜか。同社の人事担当者はこう語っていた。
「導入1年後には、従来に比べて残業代は大幅に減少した。ところが、現場の社員から成果評価に対する不満が続出した。夜遅くまで仕事をしているのに上司の成果の評価が低いとか、仕事量に見合う給与になっていないという批判も上がった。もともと労働時間が長かったが、減少することもなく、労働基準監督署からも度々指導を受けた。退職者も出るようになり、最終的に休止することにした」
以前は残業代で給与+αの収入を得ていたが、その+αが急減。労働時間は同じなので、実質タダ働きの時間が増えた。しかも、頼みの綱だった成果主義による「実入り」アップもまったくの期待外れになったのだ。
自分の裁量で仕事と時間の配分を決められるというのが建前だが、仕事量が変わらなければ長時間労働を強いられるうえに残業代も削られる結果になる。