ソニーが大失敗した理由

――日本の課長クラスの社員が現地法人の経営幹部に就くケースは珍しくありません。でも欧米企業ほどマネジメント要件をクリアした人ばかりではありません。

【白藤】皆さん語学はばっちりできますし、それなりのコミュケーションははかれるのですが、事業計画を遂行するためにどのように部下を動かし、結果を出せばいいのか。その点の能力に欠ける人が多い。

▼口癖は「3年たてば帰国できる」
――経営幹部失格ですか。

【白藤】現地ではほとんど管理職として機能していないと思います。人柄はすごくいいのですが、数字を上げられない。由々しき問題です。海外でビジネスを回すときの必須は能力です。欧米企業のマネージャーの場合、市場をどのように攻略するか、まず戦略を立てていち早く意志決定し、そのために部下をどのように動かせば数字が取れるのかを考える。そのことを徹底的に議論させて考えさせる風土がありますが、日本企業のマネージャーはその訓練が十分にできていません。ただ、3年経てば日本に帰れると思って無難に過ごそうとする。現地の部下からは「あの人は何をしに来たんだかわからない」と陰口を言われている人もいます。

日本の現地法人の最大の問題点は、語学はできてもビジネスに必要な人材の能力要件が備わっていないこと、なおかつ現地で採用している社員も明確な職務要件を満たした人が採用されていないことです。00年以降に現地法人を立ち上げた企業の中には、この組織体制では無理だということで電機メーカーを中心に引き上げたところもあります。

――日本企業と欧米企業の海外でのビジネスのやり方の違いとは何ですか。

【白藤】欧米企業は10年以上前からグローバル展開のやり方を変えています。商品企画を含めた意志決定の権限を現地に委譲し、マーケティング・販売機能のスピードも早くなっています。それに対して日本企業は今でも商品企画などの意志決定権限を本社が持ち、決定したら現地に戻すという旧態依然のやり方をやっています。

日本のグローバル最前線企業のソニーですらも90年代以降、市場の動きが変化し、商品企画のスピードが加速しているにもかかわらず、本社中心の組織・人の運用を続けてきました。現地法人に求められる能力要件を備えた人材の配置もできていなかったなど、グローバルの動きからかけ離れた組織を運用してきたことがソニーの収益が下がった一番の問題だと思っています。

▼有能社員を「2」から「6」にする方法
――2:6:2を欧米企業並みに5:3:2に変える。経営能力のある人材を増やすにはどうすればよいでしょうか。

【白藤】まずは職種ごとに求められる職務能力の要件を明確にして社員に明示し、そういう人材が育つように組織体制を見直すことです。そしてできれば27歳ぐらいに一本立ちし、35歳ぐらいまでに1つのビジネス領域のリーダーを張れる人材を作ることです。そのためにビジネス領域ごとに30代中心の組織を作り、特別のミッションを与えてチャレンジさせる。そうすれば経営能力の醸成も格段に早くなるでしょう。

もう1つ、専門職制度を設けて7年から10年かけて専門能力を磨き、匠の域にまで達する人を育てること。そうしないと職種能力の要件が厳しく求められる欧米企業に負けてしまいます。とくに技術者は技能を高めてその領域の技術コンサルタントとして一本立ちできるくらいにしていくべきです。そうしないと海外企業の匠が仕様や企画を刷新して収益を上げているような市場では太刀打ちできません。

――日本企業の中には総合職の社員を3年ごとにいろんな職務を経験させてゼネラリストに養成するジョブローテーションを実施しているところも多いです。それではダメだと。

【白藤】やめるべきです。そんなゼネラリストを私は日本企業独自の“器用貧乏社員”と呼んでいます。会社の中の仕事は何でもこなせるし、日本の中では重宝される人なのですが、ジョブ・ディスクリプションで仕事をしている欧米の法人に出向すると「おせっかいな社員」と言われ、あるいは仕事は知っているが「使われるだけの社員」になってしまう。いつまでたってもグローバルで通用する一人前のプロフェッショナルにはなれません。

――27歳で独り立ちし、35歳でリーダーを張れるような経験を積めば、40歳過ぎに陣頭指揮を執りながら海外勢と対等にバトルできるわけですね。

【白藤】そうです。体力、気力、頭脳的にも一番ふさわしい年代です。その中で一番大事なのは多様性の吸収です。若いときに日本人と外国人がミックスして仕事をする経験をさせる。どうやって市場を攻略するか、互いに議論し、切磋琢磨できるような経験をさせることです。

――そういう働き方が実現できれば、40歳を過ぎても活躍の余地が広がりますね。

【白藤】今の日本企業のミドルは先ほど言ったように“塩漬け”状態にあります。日本人は基礎能力が高いので今の硬直した組織・人の運用を変えれば、十分に海外企業にキャッチアップできます。これは断言できます。なので非常にもったいないと思っています。

SPC CONSULTING USAラボ所長 白藤 香(しらふじ・かおり)
学習院大学大学院経済学研究科博士課程後期単位取得満期退学。日・欧・米上場企業に勤務し、日本・北米・台湾でマネジメントを経験後、01年独立。グローバル市場で新事業・新市場開拓を企画立案から立ち上げまで一貫して行う戦略コンサルティング、並びに海外法人&プロジェクトで現場実践をスムーズにするための多国籍人事組織コンサルティングを実施。国内では大手上場企業をクライアントとし、これまで11業界の契約を手掛ける。
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