なぜ幹部候補が育ちにくいのか?

英米企業は経営能力を備える高位層が5割を占めるなど日本企業を上回る。1つの指標にすぎないのかもしれないが、もし事実とすれば日本企業は人材競争力で欧米企業に遅れをとるだけではなく、市場競争力でも敗れてしまうことになる。経営能力の高い人材は日本企業でなぜ育たないのか、その原因と解決策について改めて白藤氏に聞いた。

▼頭打ちミドル産み続ける残念な仕組み
――2:6:2というのは世界共通だと思っていましたが、欧米企業は5:3:2。簡単に言えば日本は経営者が務まる人は2割未満だが、欧米は5割もいる。その原因はなんでしょう。

【白藤】組織の内部的要因があります。日本企業、とくに大企業は長期で人材をプールするというシナリオに沿って評価査定や昇進ポストを限定していますが、ここが一番のネックだと思います。組織の枠にポストを入れて、そこからはみ出さないように、見合った働き方をしてくださいと。その結果、自分はこれからどのくらい上に行けるのか、キャリア人生が早く見えやすい。会社も“ミドルで頭打ち”になる運営を続けている。

確かに2000年以降、日本企業にも成果主義が入りました。しかし、チャレンジングな仕事に挑戦し、潜在能力を引き出し、仕事の領域を拡大し、成果に見合った処遇をするのが本来の成果主義なのに、そうなってはいません。成果主義プラス年功制のもとで運用し、何事もせず無難に過ごして中間値の評価を残すスタイルが支持され、結果的にこの15年を見ても私の認識では2:6:2の構図は変わっていません。

――上を目指してがんばっている優秀な若い人もいます。でもミドルに近づくと意欲が落ちるわけですね。

【白藤】一緒に仕事をするとアンテナも高く張り、確かに優秀な人材なんですが、30代後半から40代ぐらいになるとやる気を失ったり、方向性を見失っている方がすごく多い。どうしたのと聞くと「やりたいことを十分にさせてもらえない」「自分が期待している企画がなかなか通らない」と言います。それなりにがんばりパフォーマンスを出したと思っていてもボーナスは増えない。年末の挨拶で電話すると、平素は元気で組織のリーダーをやっている人なのに皆さん元気がない。自分のがんばりを会社が評価してくれないのがつらいと言って落ち込んでいます。

その原因は昇進ポストも限られ、賃金や賞与の上昇カーブが頭打ちになり、結局“何をやってもそれなり”という予測ができるので、多くの人が定年までの20年間が長く感じられ、働くことがつまらなくなるのです。

▼英語のできるエリートは海外では……
――40代以降になると“働かないオジサン”が増えると言いますが、そんな状況に陥る原因ともいえますね。海外の日本人でも同じような現象が出ているのですか。

【白藤】現地法人に赴任した日本人が思ったように活躍できなくて帰国する人が昔も今も多いです。その原因は明らかに“能力の仕込み”不足です。たとえば象徴的事例として2000年代半ばにインドに合弁で進出したIT企業が赤字続きで撤退したことがあります。IT技術は職種ごとに能力要件が決まっていて、それに沿ったプロジェクトを組めばうまくいくのですが、日本人の能力にバラつきがあり、合弁先のインドの技術者もバラバラ。結果的に納期が遅れ、納品しても不十分で手直しが続き、人件費がかさみ赤字に陥ったのです。

なぜ能力要件が揃っていないのかを会社の幹部に聞くと「うちは長期雇用なので新卒で採った人材を同じように育成し、一定の層をそのままプロジェクトにいれている」と言っていました。これはわかりやすい例ですが、日本企業はジョブ・ディスクリプション(職務記述書)に基づいた能力要件が明確ではない。たとえば数字で結果が明確になるマーケティングや営業職も能力要件が曖昧であり、日本では通用しても海外に出ると外国人との能力差が顕著に表れます。