「困難な仕事」を希望する理由

【塩田】通産省の出身なのに、なぜ自民党で農林部会長となったのですか。

【齋藤】このポストは、夢にも思わなかったですよ。自民党が変わり、人事の際、派閥の推薦とか年功序列をやめようという空気になった。1年半前の2013年9月の人事で、第1希望から第5希望まで希望を述べよ、という希望調書が回ってきました。私は23年間、役人を務めましたが、役所時代も毎年、希望調書が回ってきましたが、一度も自分の希望を述べたことがなくて、いつも「困難な仕事」としか書いてこなかったんです。

自民党が与党になって、そういうのが回ってきた。今度も同じように一番上の行に「困難な仕事」と5文字だけ書いてファックスを入れた。そしたら、政調会長の高市早苗さん(現総務相)から電話がかかってきて、「農林部会長を」といきなり言われた。いろいろな問題などで農水省とぶつかっている経産省の出身で、一度も農林部会にいたことがないのに、責任者になれと言われて、さすがにひるみました。「農林部会ですか」と聞き返したら、高市さんは「そうです。だって、『困難な仕事』と書いたでしょ」と。そう言われた瞬間、「わかりました」と即答した。考えさせてほしいと言えなかった(笑)。

高市さんいわく、「希望者がいなかった。そしたら、齋藤健の顔が思い浮かんだ」ということのようで……。私のようなバックグラウンドの人間が農林部会長になるのは、今までと違う発想で農業問題に取り組まなければ、という一つの表れですね。

【塩田】ここ数年、今回の農協改革だけでなく、農政の改革が大きく進みました。

【齋藤】大きく動きました。人口減による国内マーケットの縮小という状況を目の前にして、所得を維持・拡大する方法は3つしかない。1つは輸出、2つ目は流通・加工に出ていく。これは第6次産業化と呼んでいます。3つ目は自給率を上げる。それぞれについて、手を打っていきました。

米政策も大きく転換しました。今までのような割り当てによる生産調整では、人口減で割り当て量がどんどん減っていくので、いずれ行き詰まります。それを見越して先手で見直しを決め、平成30年産米から基本的に生産調整はしないで済むように、数年かけて工夫していくことにした。食べる米が作れなくなるなら、家畜に食べさせる餌米を作ることによって所得と水田を守っていく。畜産も同じように第六次産業化を進めていく。輸出のブランド化を図る。最後は残った問題がそれにふさわしい組織づくりで、農協改革に結びついた。

【塩田】TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)をめぐる交渉が継続中です。特に日米間の協議が長引いています。アメリカでは昨年11月の中間選挙で与党・民主党が敗北を喫して、議会は上下院とも共和党が多数を握るという変化がありました。農業の将来にも大きな影響を与えると見られているTPPについて、基本的にどういう方針とお考えですか。

【齋藤】この問題では、TPPと農業のどちらが大事かという二者択一の議論が多いんですが、私は両方とも大事だと思う。米も畜産も最低限、国内で供給できる体制を確保するのは政治の大事な仕事です。一方、TPPは今までの経済連携協定と違って一段高いレベルでやっていこうという新しいルールで、これが先駆的な例となって、世界の貿易秩序を改善させていくという点で、これまた大事だと思う。そのバランスの中で、日本の国益を最大限にする。センスのよさと力量の有無が問われているだろうと思います。

交渉の中身は、守秘義務があって開示されていないのが現実で、われわれにもわかりませんが、2つのバランスの中で国益を最大限にするような決断を政府に委ねているのですから、そうなるような決断をしてほしいと思います。一方、アメリカに対しては、あんまり大きな声で言えないけど、向こうはがめりすぎですよ。要求があまりに無理難題だった。本当にまとめる気があるのかといいたくなります。