農協改革は規制改革の試金石

【塩田】今回の農協改革の協議では、自民党内の農林族議員の抵抗も強かったのでは。

【齋藤】やはりみなさん、いろいろな意味で不安や疑問があったのは事実です。農林部会としては、丁寧に議論しようということで、1回に2時間以上、多いときで40人の意見を聞きながら、計8日間にわたってやりました。最初は反対一色でしたが、全中とも膝詰めの話をしてまとめた。

【塩田】1月11日の佐賀県知事選挙で農協改革が争点となり、首相官邸が推した候補を、農協の支援を受けた候補が破るという結果となりました。農協改革の協議への影響は。

【齋藤】実際、それはなかったと思いますね。佐賀県知事選は本当に農協改革がテーマだったのかという点について、国会議員はみんな冷静に受け止めていました。

【塩田】安倍首相は政権が取り組むべき課題として農協改革をどう位置づけていますか。

【齋藤】成長戦略の中の規制緩和の柱で、しかも真っ先にくるテーマです。昨年6月に次の通常国会に法案を出すと閣議で決めたわけですから、真っ先にくるとわかっていた。安倍首相は「規制改革の最初の試金石」と言っていますが、それもあって節目節目で力強いメッセージを次々と発したのだろうと思います。

【塩田】協議が決着した後、今後の展開は。

【齋藤】今回は骨格の了承です。これを法案にしなければなりませんが、法案の数も条文数も相当多いのではないかと思います。政府提出法案になりますので、4月3日の提出期限に間に合うように条文にして、もう1回、党で議論することになります。

【塩田】農業の将来を考える場合に、農協改革後、これからの全中には何を望みますか。地域農協、あるいは個別の農業家には何を期待しますか。

【齋藤】まず意識改革。今のままではジリ貧だという危機感、未経験のことに挑戦しなければ生き延びられないという意識、ちゃんとやれば夢が広がるという発想を共有し、日本の農業のポテンシャルを生かすためにやっていくという気運をつくることが重要です。

個別の農家も、やはり創意工夫です。農家は零細企業ですから、やれる範囲が限られていると思いますが、流通で新しい分野に出ていったり、大企業と組んでやることになるから、みんなで零細企業の集まりである協同組合の農協を強くして、農業以外の分野の人たちと闘う農協、海外などで新しいマーケットを切り開いていく力強い農協をつくってほしい。流通・加工分野に進出し、きちんと交渉して農家に付加価値がたくさん落ちるようにできる強い農協にならねばならないのです。

【塩田】農業改革によって、政府で農政を担う農林水産省の役割はどう変わりますか。

【齋藤】時代の変化を体感して大きく変わってもらうしかありません。役所として、今までやってこなかった分野に出ていくことになるから、やることがいっぱいある。輸出一つ取っても、ようやくJETRO(日本貿易振興機構)と一緒にという体制が整ってきたところです。経済産業省で何十年もやってきたことの周回遅れといったところでしょうか。同時に、国際感覚とビジネス感覚を組織の中でどうやって育んでいけるか。

経済産業省はいろいろな産業を対象に行政を行っているので、先行的に輸出で頑張った産業の次にこれから出ていく産業を担当するということも多く、成功体験を次々と他の産業に移植できる関係にあります。農水省の場合は、担当する産業が限られているので、先行事例の他の産業へ移植がしにくいと思う。ですから、これからは人事交流などが今まで以上に重要になるでしょうね。