時代の空気を作るのが政治家の仕事

【塩田】通産省時代の02年3月に刊行した齋藤さんの著書『転落の歴史に何を見るか―奉天会戦からノモンハン事件へ』は非常に示唆に富んでいます。日露戦争のときの1905(明治38)年の「奉天会戦」の画期的な勝利から、1939(昭和14)年の「ノモンハン事件」の惨めな失敗までの34年間に着目して、歴史の本質から教訓を引き出して「現在への視座」を提言していますね。あの34年に置き換えると、現代は。

【齋藤】1910年代ですね。20年代で本当の曲がり角を迎え、30年代に入ったら、もう誰も「転落」の流れを止めることはできなかった。本当の曲がり角は1920年代ですが、現代はそのちょっと前かなと思います。だから、1930年代のような時代に突入しないために、やっておかなければいけないことがあるという気がします。財政再建、人口減少への対応、農業の改革など、あらゆるものが相当の改革を必要としています。法人税の改革なども、今、取り組んでいますが、パッとやって次のステップに行かなければ、と思いますね。

【塩田】本当の曲がり角を迎えている今、政治が果たすべき役割は何だと思いますか。

【齋藤】「坂の上の雲」ですよ。1人の政治家がやれることなんて、これっぽっちです。政治がやるべきことは、自分たちは今、こういう方向に向かって行かなければ、という「坂の上の雲」を示し、あの雲に向かってみんなで行こう、みんなでそれに向かって頑張ろうという空気をつくることが一番大事ではないかと思います。日本という国は、これに向かって頑張らなければ、とわかったときには非常に強い力を発揮する。そういう時代の空気をつくり上げるのが政治家の一番大きな仕事です。

【塩田】霞が関の後輩の人たちは、転換期にどういう姿勢と発想が必要ですか。

【齋藤】やはり天下国家を考え、つねに国のためにどうすべきかという発想で政策を練ってほしいですね。ですが、現状は、私の見るところ完全に逆行です。変な意味での政治主導が強まり、政治家が狭い知識と自分の利益で政策を左右する要素が昔よりも増えました。その結果、役人は萎縮をして、国のためにはマイナスだけど、政治家が言うから仕方がないという空気が昔より強まりました。そこを打ち勝ってほしいと思います。一方で、霞が関の人たちも視野が狭くなっているのは事実です。政治家を説得するくらいのものを持ち、一人一人が国のためにはこれが必要だという発想に立って仕事をしてほしい。

齋藤健(さいとう・けん)
衆議院議員・自民党副幹事長・農林部会長
1959年6月、東京都生まれ(現在、55歳)。東京教育大学附属駒場高校(現筑波大学附属駒場高校)、東京大学経済学部卒業。83年に通商産業省(現経済産業省)に入省。91年にハーバード大学ケネディ行政大学院で修士号を取得。94年から通産省通商政策局米州課で自動車交渉など日米交渉を担当。99年に深谷隆司通産相秘書官。2000年に内閣官房行政改革推進事務局に出向し、小泉改革の「道路公団民営化」などの特殊法人改革に取り組む。04年、上田清司埼玉県知事の招聘で副知事に。06年4月の衆議院千葉7区補選で自民党の公募に応じて出馬したが、落選。09年8月の総選挙で初当選。現在3期目(千葉7区)。著書は『転落の歴史に何を見るか―奉天会戦からノモンハン事件へ』。尊敬するのは高杉晋作と原敬。「高杉は自分に絶対できないことをやった天才、原は政治力と見識の両方を備えた『戦前・戦後を通じた最大の政治家』で、真似をするなら原」と語る。
(尾崎三朗=撮影)
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