もう1つの出世ルート

こうした業種別の傾向を踏まえたうえで、渡部氏が唱えるのが「社風」による違いだ。著書(『日本の人事は社風で決まる』)でも次のような都銀の事例が紹介されている。

「今も合併前の社風は脈々と生きており、一番強烈なキャラクターは住友銀行。高収益率の要因は行内の競争の激しさの結果としての行員の強さにある。個性が強い『一匹オオカミ』的な社風だ。その対極が合併相手の三井銀行で、一言でいうと草食系の社風」

渡部氏の大学の同級生でも、とある地方出身者がメガバンクの常務から子会社の副社長に転じて出世頭となった例がある。新卒時に「地味で泥臭い」といわれた都銀に入社したその人は、社風にぴったりのキャラクター。他行との合併後も順調に出世した。

となれば、自分が勤める会社の社風を見極めることも大切だが、平康氏はこんな見解を示す。「社風だけでなく『変化』の視点でも考えたい。組織にとって最大の変化は『顧客が代わり、商品やサービスが変わること』。自分の勤め先が変化の激しいベンチャー企業なのか、変化の乏しい役所かで違ってきます」。

こうした出世事情を踏まえたうえで、2人のアドバイスは似ている。渡部氏は「自分の会社を理解し、目の前の仕事に埋没しつつ、クールな目でもう1人の自分が見ていること」と言う。

平康氏は「業務に没頭する一方で上司の仕事ぶりも観察しておく。アナログ的には一緒に飲みにいくなどして、早くから上の役職の意識を学んでおくといい」と話す。

もっとも、同じ会社のラインで上にいくことだけが出世ではない。なかには異業種に転職したり起業したりして真価を発揮する人もいる。今回登場してもらった2人も、そうした経歴を歩んで専門性を磨いてきた。

渡部氏は金融の保守本流といえる長期信用銀行の旧日本長期信用銀行を出発点に、旧日本興業銀行を経て、セブン-イレブン・ジャパン、楽天グループという新興企業で人事の専門家として腕を振るってきた。平康氏は、アクセンチュアと日本総合研究所での経験をもとに、独立開業した。

変化の激しい時代に生きるサラリーマンは、そうした「もう1つの出世ルート」があることも、常に意識の隅に置いておくべきではないだろうか。

(永井 浩=撮影)
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