「当社の今年度の売上高は前年度に対して125%増となりました」
ある講演会で、プレゼンテーターの若いビジネスパーソンがパワーポイントを使いながら、自社の業績を鼻高々に説明した。
しかし、手元の資料を見て「おやっ?」と思った。前年度と今年度の実績値がおのおの「100億円」「125億円」と示されていて、「125%増」ではないとすぐにわかったからだ。
では「125%増」とは、どれくらい増えたことを意味するのだろうか。
たとえば「100%増」というのは、前年の売上高と同じ額だけ増えた、つまり「2倍」になったということである。「125%増」はそこにさらに前年の「25%分」を上乗せした金額、つまり「2.25倍」になったということなのだ。いまの時代、売上高が前年の倍以上に伸びるというのは、そうあるものではない。
それなのに会場では、誰も疑問を差し挟まなかった。単なる「ちょっとした言い間違い」と誰もがわかっているからだろう。しかし、この「ちょっとした言い間違い」にこそ、その人物の数字に対するリテラシーが透けて見えてくる。
つい最近、某テレビ局の女性アナウンサーが「訃報」を間違えて番組中で読んでしまい、インターネットで(悪い意味で)話題になってしまったことがあった。いわゆる“読み書きソロバン”レベルでの「ちょっとした言い間違い」は、ささいなことと思われるかもしれないが、ビジネスパーソンとして致命的なミスなのだと肝に銘じておくようにしたい。
話を元に戻そう。割合は「比べる量÷基の量」の計算式で算出される。「基の量=100」「比べる量=125」ならば、「125÷100=1.25」となる。
そして、どれくらい増えたのかを表現したいのなら「1.25-1=0.25」、つまり「前年度に対して0.25だけ増えた」となる。さらにこれを百分率で示すと、「前年度に対して25%増」ということになるわけだ。
一方、単に前年との比較を表現したいのであれば、前年度と比較して1.25、つまり「前年度に対して125%」となる。
要するに「どれだけ増加したか」と「単なる比較」の表現方法を混同しているから、くだんの若手ビジネスパーソンのような発言が生まれてしまうのだ。私はさまざまな従業員研修でビジネスパーソンと会話をするが、この単純な「言い間違い」をする人が年輩のビジネスパーソンでも意外と多いことに驚いている。
重要なプレゼンや商談などの局面におけるこのような言い間違いは、本人だけではなく所属する会社のミスととらえられてしまうので要注意だ。重箱の隅をつつくような話ではあるかもしれないが、会社の看板を背負って仕事をする以上、こうした初歩的なミスは絶対にしないよう気をつけたいものである。
数字の教育に携わっている人間として、常日頃から私は強くそう願っている。