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スマホのつながりやすさを強調するけど…… ※スマホパケットの接続率(全国・週間平均)。S社、A社、D社の各スマホ約4万台を対象に、パケット通信が正しく成立した率を調査したもの。(PIXTA=写真)

「つながりやすさNo.1」というスマートフォン広告を盛んに打っていた某携帯電話会社S社。つながりやすさは携帯電話を選ぶ際の重要な基準で、気になった人も多いだろう。しかし、この手の広告の数字については、頭から信じ込まないほうがいい。

S社は2013年1月13日~14年8月3日までの、自社を含めた携帯電話3社のスマホのパケット接続率(週間平均)を調べ、その結果を発表している。それが掲載のグラフだ。確かにS社は98.5%でトップだが、ライバルのA社、D社の接続率をそれぞれ1.2%、1.4%上回っているだけで、実はほとんど差がない。

ところが、グラフではS社の接続率がダントツで高いように見える。その秘密は左側の接続率の目盛りにある。94~99%の部分だけを切り取って拡大しているのだ。もし、目盛りが0~100%なら、折れ線グラフは、下のグラフのように重なって見えるはずだ。

こうした“トリック”は、企業広告の世界では基本といってもいい。売り上げの伸びをPRしたい場合、売上高の棒グラフを札束のイラストなどに置き換え、立体化する手もよく使う。立体の場合、長さが2倍になると、体積は「2×2×2」で8倍になる。そのため、売上高をイラストで表すと、実際の増え方よりも大幅に増えたように見えるのだ。

商品やサービス、経営内容について、読み手によい印象を持ってもらうのが企業広告の狙い。自社に有利なデータをフォーカスし、それを強調しようとデフォルメするのは当然のことである。S社は正しいデータを示しているし、誇大広告をしているわけでもない。データに化粧を施して、上手に利用しているだけなのだ。

S社のS社長は「プレゼンの達人」として名高い。S社長のように、優れたビジネスマンは数字に強く、統計の威力もよく知っている。「数字は客観的なデータだ」と思い込んでいる人が多く、数字をプレゼンに巧みに利用すると、その効果は大きい。

それに引っかからないためには、“細かいデータ”をチェックする習慣を身につけよう。相手は印象づけたいデータは大きく見せ、目立たせたくないデータは小さく見せようとするからだ。今回のケースでいえば、接続率の目盛りである。そこに着目すれば、「接続率の小さな差を大きく見せたい」というS社の目的がわかってくる。

また、細かい字で書かれたデータの「注釈」をチェックすることも重要なポイントになる。そこには、データ抽出の諸条件などが記されていて、自社にとって有利な設定を行っているかもしれないからだ。「細かい字で書いてあるし、重要ではないのだろう」と思って読み飛ばし、相手の術中にはまってしまったとしても、それはデータを読み取るリテラシーのないあなたが悪いのだ。

(野澤正毅=構成 PIXTA=写真)
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