「統計」データを手押し車で運ぶ!?
イギリスのテレビ放送局BBCの『裸のシェフ』で話題となり、世界的にも有名になったジェイミー・オリバーは、日本でも銀座のレストランとコラボレートするなど人気が高い。料理の材料をビニール袋に入れて叩き割ったり、パン生地をこねるのに壁に向かって投げつけるなどのパフォーマンスは、料理番組には画期的なものだった。料理の腕もさるものながら、料理プロセスの見せ方をはじめ、話し手としてもプレゼンテーション巧者でもあることをご存知だろうか?
彼が、プレゼンカンファレンス「TED」に登壇し、「食育」をテーマに語ったときのこと。人がいかに砂糖を摂りすぎるかを提示する手法にインパクトがあったのでご紹介しよう。
アメリカの子供たちが、牛乳を飲みやすくするために糖類を加えた“加工牛乳”から摂取する砂糖の量を見せるために、1日でスプーン8杯分、1週間ではシャベルひとすくいの角砂糖をステージの上に撒いてみせ、5年間では……工事用の手押し車にいっぱいの角砂糖をばら撒いたのだ。
「これが統計です」と、見せられた砂糖の量は衝撃的だ。
「統計」といえば数値データが前提だが、人に見せるときには数値だけである必要はなく、またグラフである必然もない。「すごい砂糖の量で、○○キロにもなる!」と数字で伝えた場合、その“すごさ”の印象は聞き手により幅があり、なんとなく「このくらいか」と感じられるだけかもしれない。けれども、その量を具体的な「絵」として見せたり、聞き手の脳裏にイメージが浮かぶ工夫をすることで、こちらの意図通りのインパクトを与えうるのだ。
「絵」を組み合わせて、記憶強度アップ
心理学者のアラン・パイヴィオ博士は、「画像のほうが言語よりも記憶成績がよく、数字も言葉も「絵」として示すことで、聴衆にインパクトを与える」(*1)としている。
もちろん実際に「絵」である必要はなく、具体的に「絵」が浮かぶような言葉にするだけでも、印象は強くなる。
人の学習効果は視覚が約80パーセント、聴覚が約10パーセント、と、圧倒的に視覚のほうが高いとされ、短期記憶の視聴覚実験(*2)でも、パネルに書かれた項目を視覚提示したほうが、聴覚に訴えるよりも記憶成績がいいとの結果がみられる。
「記憶は言語性とイメージ性のどちらか(あるいは両方)として存在する。具体的なコンセプトは絵として残り、両システムによってエンコードされるが、抽象的なコンセプトは言語上のみでエンコードされる」(A・パイヴィオ)
つまり、言葉と絵を組み合わせる、あるいは具体的に絵が浮かぶ表現を使うことで、その伝わる効果は格段に高まるというわけだ。
これを私たちが仕事上やり取りする数字の説明に応用してみよう。