人並みの努力では絶対に成功できない

強い「思い」を抱いたなら、あとはその思いを実現するため「誰にも負けない努力」をするのみだという。

努力が大切だということは、皆さん知っているでしょうし、努力をしていますかと問われたなら、ほとんどの人が「はい、努力をしています」と答えることでしょう。しかし、人並みの努力を続けたとしても、周囲と同程度の努力をしているだけでは、成功はおぼつかないのです。「誰にも負けない努力」を続けない限り、大きな成果は期待できません。人並み以上の努力をせずに、大きな成功を収めるということは絶対にないと私は思っています。

誰にも負けない努力をするということは特別なことだとつい考えがちですが、決してそうではありません。特に経営者の場合は、そのような使命を与えられているという自覚を持つことが不可欠です。それは経営者は何のために働くのかという根源的な問いにつながります。

私自身がまだ青年経営者であったころには、会社を何とか発展させようと「誰にも負けない努力」で働きながらも、何か損な役回りをしているように感じたことがありました。全力で経営に打ち込めば打ち込むほど、「こんなに割の合わない仕事はない」と思ったほどです。社長としてこれだけの仕事をしているのだから、もっと報酬をもらってもいいのではないかと思ったこともありました。しかし、私はそのときに思い直したのです。

経営者としての自らの才能は、天から与えられたものだから、みんなのために使わなければならないのではないか。そうした役割を果たすことが求められているのではないか。

私が経営者になったのは、たしかに私自身に、ある種の才能があったからなのかもしれません。しかし、私がそうした才能を持っていたことには何の必然性もなかったはずです。そうした才能を私が天から授かっただけのことで、ほかの誰でもよかったはずです。

社会を成り立たせるうえで、さまざまな才能を持った人が存在する。私はたまたま経営者としてリーダーの役割を担うことになっただけのことです。その役目を担うのは、私ではないほかの誰であってもよかったはずです。ですから、経営者は自分自身が授かった才能を私物化してはいけないのです。才能を自分のものとして私物化し、「俺は偉いのだ」という態度を取るのは、いかがなものでしょうか。自分に経営者としてのある程度の才能があるなら、多くの仲間のために先頭を切って努力し、その使命を果たさなければならない。そのような使命感が私の中に形成されていきました。

(大高志帆=協力 西谷 格、町川秀人=撮影)
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