そんな山下が“シリーズ中随一”と太鼓判を押すのが、19巻に収録された「妙義の團右衛門」である。

「鬼平さんのリーダーとしての強い責任感、部下に対する熱い思い、絶妙な人事マネジメント、そうした要素がぎゅっと凝縮された一篇です」

裕福そうな屋敷に忍び込んでは見取り図を作り、それを盗賊に売って糊口をしのぐ者を嘗なめやく役と呼ぶが、鬼平の人柄に心酔してその嘗役から足を洗い、鬼平の下で密偵役を務める馬蕗の利平治という男が登場する。利平治は盗賊・妙義の團右衛門が江戸でひと仕事することを.むが、それを團右衛門に覚られてしまう。昔の悪党仲間にとっての裏切り者、利平治は無残に扼殺される。

「鬼平が利平治の敵を討つ場面と、そこに至るまでの流れがなんとも……」
「團右衛門。思い知ったか」
「う……う、う……」
「これで終わりと思うなよ。おのれの一味のことごとくを引っ捕えるまでは、じっくりと、わしの手で拷問にかけてくれる。馬蕗の利平治が、あの世からおのれを見ていよう」(19巻107ページ)

仕事への責任、部下への責任を最後の最後まで果たす。胸を突かれるのは山下だけではあるまい。

(文中敬称略)

阪急電鉄 グランフロント大阪S&R副支配人 山下正人
1992年 阪急電鉄入社。
1993-98年 ビル事業部SC営業チーム販売促進担当。
2004年 阪急リエゾンサービスPM営業企画部。
2009年 GF大阪商業施設支援業務HHBMプロジェクトリーダー。
2011-13年 不動産開発部 課長GF大阪商業プロジェクトリーダー。
2013年 阪急阪神ビルマネジメントへ出向、現職。

●デキる男の本の選び方、購入場所、読書タイム


―山下さんオススメの1冊
『鬼平犯科帳』全24巻 池波正太郎著/文春文庫
―四季折々の江戸で描かれる捕物劇―
盗賊たちが“鬼”と恐れる江戸幕府の火付盗賊改方・長谷川平蔵。妾腹の非エリート育ち、義理人情も心得つつ、時に悪人への苛烈な拷問も辞さぬという人物像は、組織人の「理想の上司」として今も絶大な支持を得る。
―どんな本を仕事に役立てている?

『ディズニーこころをつかむ9つの秘密』渡邊喜一郎著、ダイヤモンド社『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』岩田松雄著、サンマーク出版
―挙げた書籍以外に印象深いものは?
『男の品格』川北義則著、PHP研究所「仕事は男の中身を作り、遊びは男の行間を広くする」究極の生き様に少しでも近づきたいと考えている。
―どこで本を買う?
月平均4冊を紀伊國屋書店、BOOK1stで購入。日経ビジネス、LEON等雑誌派。
―いつ読んでいる?
平日は通勤途中の電車の中や就寝前、休日は喫茶店で。

 

(浮田輝雄=撮影)
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