ふたつ目は「謝罪2+感謝1」の会話のバランス。コールセンターにかかってきたクレームの電話に対して「申し訳ございません」とひたすら謝り続けるオペレーターが多いという。しかし「謝って済むと思っているのか!」と逆に火に油を注いでしまうケースも。そこで榎本さんは「申し訳ございません」と2回いった場合、その次には「貴重なお時間をいただいてありがとうございます」と感謝を伝えることにしている。
「感謝の言葉でなくてもいいかもしれませんが、お礼が一番いいやすいのではないでしょうか。謝罪ばかりにならないことが重要だと思います」
次の「罪悪感を刺激する」も書籍にヒントをえた会話術だ。『ブラックメール』という心理学の本で、人を動かす感情として「恐怖心」「義務感」「罪悪感」の3つが挙げられていた。榎本さんはいう。
「いままで督促は『恐怖心』に訴えてきた仕事だったんでしょうけど、貸金業法が改正されたあとではそれはつかえません。また、私たちが督促のお電話をするお客さまはもともと『義務感』に問題がある方が多くて……。最後に残った『罪悪感』をどうやったら刺激できるかを考えました。そこでお客さまがおっしゃった入金の約束日時を破った直後に電話をするようにしました。お客さま自身が決めた日時ですから破ったら『悪いな』と思ってもらえるのではないか、と。そのときは『入金まだですか』というのではなくて『お客さまが○日に入金してくださるというからお待ちしていたんですよ』と柔らかい口調で話すようにしています」
そして4つ目が「ゆっくり丁寧に話す」。榎本さんは督促OLとしての経験をこう振り返ってくれた。
「いま振り返ると、入社当時の私は、内向的でコミュニケーション能力が欠如していました。常に目線は自分だけに向いていて、自分は相手からどう思われているかばかりを気にしていたんです。でも、仕事をはじめてからは少し引いた視線で、自分だけではなく周囲を見ることができるようになった気がします。いまお客さまはどんな表情をして、何を考えて、なぜ怒っているのだろう……。そんな想像をしながらお話しするようになりました」
同じ言葉を口にしたとしても、客が喜ぶひと言になるとは限らない。客が喜ぶひと言を生み出すのは、口にする側が抱く相手への思いやりやもてなしの気持ち、そして想像力なのだ。
新卒で信販会社に入社し支払延滞顧客への督促を行うコールセンターに配属される。心を病んで次々と辞めていく同僚を見て一念発起。いい負かされず回収できる独自のメソッドを開発。著書は6万部超のベストセラーに。