困ったときのまあちゃん頼み
「たいへんねえ。会社、辞めたくなっちゃったでしょう?」
ふと目を上げると、この人の包み込むような笑顔がある。思わず涙をこぼす部下もいるだろう。この道20年の問題解決能力に加え、慈母のごときフォローの巧みさで「困ったときのまあちゃん頼み」といわれるのが大島昌子だ。
大島は、花王の「生活者コミュニケーションセンター」で2007年から部長職をつとめている。
花王製品についての消費者からの問い合わせや意見などを一手に引き受け、そうした情報を商品開発や営業といった会社の・出力・部門へフィードバックするのが、大島率いる生活者コミュニケーション部の仕事である。消費者起点の経営を標榜する花王にとっては、扇の要といえる大事な部署だ。東京・墨田区のセンターには常時50人ほどのスタッフが詰めている。
花王の消費者相談部門は、戦前の1934年に設立された「長瀬家事科学研究所」を起源とする。その2年前に日本で初めて発売した花王シャンプーの使用法を啓蒙するのが当初の役割だったというが、以来70年以上にわたり、消費者からのクレーム情報を蓄積してきた。78年には早くも「花王エコーシステム」という名称で電子化を果たし、こうした情報を消費者志向の商品づくりに生かしてきたという歴史がある。
したがって、現在の生活者コミュニケーション部も、単に消費者からのクレーム処理をしているだけではない。
「『誠に申しわけございません。では、代わりの品をお送りいたします』……これで済ませるような仕事ではありません。電話をくださる方はもともと花王の製品を買ってくださった『花王ファン』です。花王に対する想いと、逆にがっかりしたところをしっかりとお聞きし、より深い花王ファンになっていただく。このことを常に心がけています」