私は社長室でじっとせず、現場に頻繁に足を運び、直接声を聞くようにしています。上司が待っていたらダメ。実際、自分が若いときは役員のところに行きたいとは思わなかったですから。
ディーリングルーム時代は、個室もありましたが、あえて全体を見渡せる中央にデスクを置きました。ざわざわとした空気の中にいると、相場が動いたなとか、何か困っているなと感じ取れます。顔が見えることはそれほどに重要なのです。
情報共有は形だけではなく、行動も大切です。私は部下に「頑張ってね」とか「ご苦労さん」とは言わず、「一緒に頑張ろう」と声をかけます。私も同じ船に乗っているという気持ちを伝えたいからです。
自分自身を知ることも、充実したコミュニケーションには不可欠です。特にグローバル化が進む中で、自分の国の歴史や文化、価値観を理解できていなければ、異文化の人々の立場を的確に認識できないと思います。
自分を理解できない人間が、相手を理解できるでしょうか。平たく言えば、「語れるような自分」があるかどうかが重要なのです。
部下とのコミュニケーションを深めるうえで、上司として気を配っておきたいのは、部下の置かれている環境です。職種によっては陽の当たりにくい仕事もあるからです。
営業はわりと花形になりやすいのですが、例えば事務やATM保守担当はミスがないのが当たり前。何もない「普通の状態」がベストとされる持ち場です。私はそういう人から真っ先に声をかけます。従業員は見てもらっていることがモチベーションにつながります。私がなるべく現場に顔を出すのは、このような理由もあるのです。
人材の条件を掲げる以上、その力を発揮してもらえる環境づくりはトップの重要な役目と心得ています。
1953年生まれ。徳島県立城南高校卒。76年東京大学法学部卒業後、三井銀行(現三井住友FG)入行。2001年市場資金部長、03年執行役員、07年常務執行役員。09年取締役兼専務執行役員などを経て11年4月より現職。
座右の銘・好きな言葉:日々新た
座右の書・最近読んだ本:『失敗の本質』『地球最後の日のための種子』
尊敬する経営者・目標とする経営者:学ぶべき先人の数が多く、具体名は控えます
私の健康法:フィールドウオッチング