国民の幸せのための政治になっていない

【塩田】2度目の首相の安倍さんの政治をどう見ていますか。

【前原】デフレ脱却・経済再生を前面に打ち出し、日本銀行総裁を交代させて、国民のマインドも変えた。その点は評価します。私も野田佳彦内閣で経済財政担当相をやっていたので、日銀による金融緩和という安倍政権の方向性は間違っていないと思う。

ただ、新規発行国債の7割を日銀に買わせた。円安と同時に、輸入価格の高騰などもあり、ダブついた資金が土地や金融商品に回れば、将来的にはバブルになる懸念があります。結果的に中小企業への皺寄せや一般の国民の生活費上昇という副作用が出ています。

私は社会主義者ではありませんので、自由競争が大事だと思いますが、あまりにも大企業優遇に偏りすぎています。法人税減税自体を否定しませんが、消費税を上げたタイミングで法人税だけ下げて、それで財政再建をどうやって実現するのか。企業側に内部留保が 300兆円以上もあるのに、法人税減税をやる意味があるのかどうか。一方、ホワイトカラー・エグゼンプション(例外)ということで、一定の年収以上の人の残業代はゼロにするという施策も打ち出していますが、国民の幸せのための政治というよりも、企業を儲けさせる成長戦略の歯車の一つにしようとしているのでは、という懸念を持っています。

他方で、日本は人口減・少子高齢化という構造問題、莫大な財政赤字の問題を抱えていますが、これについての切り込みは非常に弱いというのが私の印象です。

【塩田】安倍首相は7月1日、集団的自衛権の行使を認めるための憲法解釈変更を閣議決定しました。この問題に関して、前原さんは安全保障基本法の制定を唱えていますね。

【前原】私は集団的自衛権には必要なものもあると思っています。安全保障基本法は、私が民主党代表だった2005年に憲法提言を出したとき、そういう法制をつくるべきだという考え方を決めた。その後、与野党共同で有事法制をまとめる際、私が野党の責任者で、自民党側と合意に至るときに、名称は違いますが、安全保障に関わる緊急事態基本法をつくるべきだということになった。それ以来、ここまでずっと続いている話です。

集団的自衛権を認めるなら、その考え方、範囲、それから今までの専守防衛、非核3原則、武器輸出に関わる原則など、日本の安全保障政策について、基本的な考え方をしっかりと書いた安全保障基本法が必要だと言い続けてきました。

【塩田】自民党でも、石破茂幹事長は、同じように安全保障基本法の必要性を説いていましたが、安倍内閣はそれよりも自衛隊法改正などの関連法案の整備を目指しています。

【前原】そうですね。向こうから出てくる法案は精査したいと思います。今までは憲法解釈が歯止めだったという面が事実としてあった。集団的自衛権の行使を認めても、地球の裏側の戦争には参加しないと政府は言っていますが、やるのでは、と危機感を持つ国民も多い。安全保障基本法でその場合の考え方を決めることが大事です。自民党にも同じ考え方の人がいますので、われわれ野党の提言に真摯に耳を傾けていただきたいと思います。

【塩田】民主党には、集団的自衛権問題で前原さんと考えの異なる人もたくさんいます。

【前原】安全保障について、従来から党の中で議論が行われてきました。先述の有事法制をまとめる際も相当、苦労した。政権を担ってからも、安全保障に関わる考え方、普天間の問題などで意見が分かれました。ですが、集団的自衛権の問題については、党の「次の内閣」で丁寧にこの見解をまとめ、党として承認しています。私と違う意見の人たちがいるのは事実です。後は具体的に法案が出てきたとき、どうやってまとめるのかが問われると思います。かつて有事法制をまとめたわけですから、しっかりと議論すればまとめられるという自負があります。同じ方向でまとめることができれば、と思っています。