3つ目として、人材が育たなくなることも問題です。上司は部下に何を言っても響かないので、育成を諦める。一方、部下のほうから見ると、「俺はがむしゃらに頑張って30代で家を買った」と自慢する上司は、自分の目標にはなりえません。育成を諦めた上司の下で、周囲にロールモデルも存在しない状態で人が育つのは難しい。
これらの3つの弊害が起きている組織には、閉塞感が漂っています。そうした閉塞感は、病気休職の増加や退職率の上昇という形で組織を蝕んでいきます。問題の根っこにある上司と部下の職業観の違いを放置しておくと、不幸になる人が増えるばかりです。
では、上司と部下の職業観が乖離している場合、上司はどうやって職場をまとめていけばいいのでしょうか。
処方箋として、2つのアプローチが考えられます。1つは、部下の職業観を前提にしてマネジメントするアプローチ。もう1つは、部下の職業観を広げて引き上げるアプローチです。別の言い方をすると、前者は自分が変わって部下に合わせるアプローチで、後者は部下の考え方をこちらに引き寄せるアプローチといえます。
上司としては後者のアプローチに飛びつきたくなるところですが、これまではそのやり方で失敗して、部下との溝が広がってきたはずです。最終的には部下を引き上げることが必要になりますが、最初はこちらが部下に合わせるアプローチから入ったほうがいいでしょう。
部下の職業観を前提としたマネジメントのポイントは3つあります。まず1つは、「チャンスは小さく、数多く」です。上司世代は部下への期待感を、与える仕事の大きさで示す傾向があります。期待をかけている部下に大きな仕事を与えることで、達成感を得たり、給料アップや出世のチャンスをつかんでほしいと考えているわけです。しかし部下世代からすると、上司の過度な期待は発奮の材料にならず、むしろプレッシャーになってしまいます。そこで大きな仕事を1つ任せるのではなく、小さな仕事を同時並行で担当させ、プレッシャーを軽くしてあげましょう。