どうして職業観にこれほど大きな差がついてしまったのでしょうか。それはおそらく、企業が求める成果とその時間軸に関係があると思います。上司世代が新人のころは、企業に人材を抱える余裕があり、「失敗してもいいからやってみろ」というトライ&エラーも許されてきました。そうした環境があればこそ、上司世代は責任感を持って新たなことにチャレンジして、仕事にやりがいを見出すことができました。ところが、企業が短期的な成果を追求するようになると、失敗が許されない雰囲気と、マネジメントや人事制度が確立されてきます。そうした環境においては、とにかく自分の居場所を確保することが最優先。いまの部下世代が仕事で自己実現するより、まわりから認められることを重視するのは、ある意味で当然といえます。
ただ、原因がどうあれ、かみ合わない状態を放置しておくのはよくありません。上司と部下のズレを放っておくと、次の3つの弊害が起きてきます。
まず一つは、意思伝達の問題。上司と部下で意識にズレがあると、上司が事業の戦略や方針を伝えても、部下がそれを理解できない、あるいは異なった解釈をするおそれがあります。
象徴的なのは、「顧客満足」をめぐる解釈です。「顧客満足度の向上」を方針として掲げている会社は多いですが、その方針には、顧客満足度を高めることによってリピーターを増やしたり、自社のブランディングに活かしたいという戦略的な思惑があるはずです。上司は当然、そうしたメッセージを込めて部下に方針を伝えています。
しかし、もともと個人の職業観として顧客に評価されることだけに重きを置いている部下には、そのメッセージが伝わりにくい。その結果、「顧客が喜ぶから」といった理由で値引き要求に安易に応じる部下が出てきてしまいます。安易な値引きは継続が難しく、結果的に顧客との関係性を損ないかねません。職業観のズレを放置したまま「顧客満足」という言葉を使うと、本来の目的が達成できないばかりか、上司の意図と逆の結果を引き起こしかねません。
2つ目の弊害として、お互いが萎縮することがあげられます。お互いのズレが埋まらないまま上司が熱弁をふるっても部下は嫌がるだけですし、飲み屋でゆっくり話そうと誘っても断られてしまいます。こうした状態が続くと、しだいに上司は部下とのコミュニケーシュンを躊躇するようになるでしょう。
部下の側も同じです。たとえば上司に仕事上の悩みを相談しても、職業観の違いから「そんなことはよくあることだよ。気合で乗り越えろ」の一言で片づけられてしまいます。こうした経験をすると、部下は「言われたことだけやればいい」と考え、新しいチャレンジをしなくなるでしょう。こうしてお互いが萎縮すると、上司も部下も最低限のことしかやらない、小さくまとまった組織になってしまいます。