「もしかしたら、本当の情報かもしれない……」心がざわついた

「はい。大相撲の八百長問題はご存知ですね。それと同じことが、競馬でも行われています。2つ目に知っておいてほしいのは、競馬情報会社B社の存在です。ここにはAグループの人たちが役員として多く入っています。当社はこのB社から、Aグループによる仕込みレースの特別情報を手に入れています。3つ目は枠順になります。JRA(日本中央競馬会)は表向き、枠順はコンピューターによる抽選で決めているといっていますが、仕込みレースでは、やらせ馬が勝てるように枠順が決められているのです。こうして、Aグループ、競馬情報B社、JRAと3つが融合して、仕込みレースができるわけです」

私の中の「もしかしたら」心が激しく騒いだ。しかし、平静を装って言った。

「そんな話を急に聞かされても、ちょっと信じられませんよね」

すると、こちらの返答は織り込み済みといった感じで男は丁寧な口調で話し、電話を切った。

「ごもっともです。今週末のレースの極秘情報を手に入れられるので、明日改めて説明します」

翌日、男はまず「この仕込みレースを提供する上で守って頂きたいルールが3つあります」と言って、次の言葉を読み上げた。

「1つ、この情報を他言しない。2つ、このレースでの馬券の購入はしない。このレースではその内容が真実かどうかを見極めてもらいたい、ということです。本来、この特別情報は、会員さんの審査をした上で、それに受からないと提供できない貴重なものなのです。3つ目は、JRAなどに仕込みレースがあるかなどと、クレームをしないでくださいね。約束できますか?」

私は自分でもびっくりするような大きな声で、はっきり「はい」と即答した。

答えると、明日の仕込みレースがどうなるかを伝えられた。ただ、「○○という馬が先頭に出まして……」とレースの流れを話すものの、肝心な着順については、「あなたはまだ特別会員ではないので、残念ながら着順を教えることはできません」とごまかされた。

「教えてもらうには……?」
「そうですね、この仕込みレースの着順まで教えるとなると、情報料金がかかってしまいます。300万円になります」

私はその「誘い」を断った。実際にレースを見てみたが、聞かされた「レース展開」はどうとでも取れる内容であった。

やはり詐欺だった。しかし、彼らはある高等なトーク術を駆使していた。