メキシコ新工場では立ち上げ当初の生産能力は年14万台を計画しているが、今後は「マツダ2(日本名デミオ)」などの生産車種を拡大させながら、2015年度までに年23万台規模に引き上げる。このうち5万台分はトヨタ車ブランドの小型車の受託生産を予定している。
現在の従業員数は約3100人だが、年23万台のフル生産時には「4600人の雇用を見込んでおり、雇用の促進で地域経済にも貢献ができる」(江川恵司・MMVO 社長)とし、メキシコ政府も大いに期待を寄せる。マツダの開所式の1週間前にはホンダのメキシコ新工場の式典にも出席していたメキシコ大統領は「日本企業の進出で若者に雇用のチャンスを増やしてくれた」と上機嫌でスピーチ。地元のグアナフアト州知事も「サラマンカの町の名称を“サラ・マツダ”に変更したほうがいい」などと大歓迎で、ユーモアたっぷりに挨拶したほどである。
日本の自動車メーカーがメキシコでの現地生産を加速させている背景には、自動車大国の米国と隣接するという恵まれた立地が最大のメリット。しかも、メキシコはカナダを含めた北米自由貿易協定(NAFTA)に加盟するほか、中南米各国や欧州など50か国以上とも広範な自由貿易協定(FTA)を結んでいる。日本からの輸出では関税がかかるが、メキシコからの輸出では一定の条件が満たされればその負担がなくなる。このため、メキシコは生産台数の8割が輸出に振り向けられるほどの世界有数の自動車輸出大国として台頭している。
マツダは海外生産比率が約3割と低く、その分日本からの輸出比率が高いため、為替変動の影響を受けやすい。山内会長の社長時代は超円高に苦しめられて赤字決算を余儀なくされただけに、「こんな辛い思いを繰り返したくないという固い決意のもとでメキシコ進出に踏み切った」と感慨深げに語る。
だが、半世紀前からメキシコに進出して同国内シェアナンバーワンの日産自動車や生産拠点を増強したホンダのほか、独フォルクスワーゲンなど欧米のメーカーがしのぎを削る。山内会長も「リーマンショック後に打ち出した構造改革のスタート地点。これからが本番という気持ちでやっていきたい」と述べる。激しい国際競争を強いられている中で後発のマツダがメキシコでの確固たる地位を築くには、日本と同様に「モノ造り革新」によるブランド価値を高めていくことが極めて重要である。それには、昨年6月に山内氏からバトンを受け継いだ小飼雅道社長のこれからのカジ取りに負う面が大きいといえよう。