為替変動リスクの回避などで海外の生産拠点づくりを急ぐマツダ(本社・広島県安芸郡、小飼雅道社長)が、メキシコで乗用車を現地生産する新しい工場を本格稼働させた。北米での新工場のオープンは、1987年の米国ミシガン州のフラットロック工場以来27年ぶり。メキシコ進出は2004年12月のマツダ車販売に端を発するが、生産事業に乗り出すのは初めてである。
同社のメキシコ新工場は、マツダが70%、住友商事が30%を出資。2011年9月には合弁生産拠点「MMVO(Mazda de Mexico Vehicle Operation)」を設立した。投資総額は7億7000万ドル(約790億円)で、中心都市メキシコシティから北西に約250キロメートル、ユネスコ世界遺産に登録された歴史的な市街地と豊かな銀山で知られるグアナファト州のサラマンカ市に建設。約256ヘクタールの広大な敷地は、海抜2000メートルの雨季がほとんどなく乾いた高原台地にあり、かつてはトウモロコシ栽培などの畑地だった。現在は生産ラインを直線配置した最新鋭の車両組み立て工場をはじめ、今年秋に稼動する予定のエンジン機械加工工場の建屋が横に長くのびる。
また、日系の部品メーカーが集積するサプライヤーパークのほか、地域社会との交流をはかるサッカー場などの多目的スポーツ施設やブランド発信の役割を担うミュージアムなども併設している。北米大陸を縦断する鉄道の引き込み線も備えており、工場から搬出された完成車は直接貨物列車に積み込まれて、米国の各地に輸送される。
2月下旬、マツダの世界戦略小型車「マツダ3(日本名アクセラ)」の本格量産を開始したばかりのメキシコの新工場では、グローバル生産拠点の誕生を祝う開所式が盛大に行われた。セレモニーには、メキシコのエンリケ・ペーニャ・ニエト大統領をはじめ、経済大臣、地元のグラナファト州知事、目賀田周一郎・駐メキシコ特命全権大使らを来賓として迎え、日本から山内孝・マツダ会長、中村邦晴・住友商事社長のほか、取引先の関係者、現地で働く従業員の代表など約600人が出席した。
冒頭挨拶に立ったマツダの山内会長は「この新工場には3つの大きな使命がある。第1にメキシコの『良き企業市民』になること。第2にマツダが社運を賭けた構造改革の中で、最も重要なグローバル戦略拠点となること。そして、第3にマツダが誇る新世代技術『SKYACTIV』を世界に広めること」などと述べた。山内会長の背広の襟には昨年4月、メキシコ大統領から授与された「アギラ・アステカ勲章」がまぶしく輝いていた。ちなみに、この勲章はメキシコ政府が経済発展や友好親善に尽力した外国人に授与する最高位の勲章で、日本ではJICA特別顧問の緒方貞子さんも受賞している。