スピード優先の判断に感じる違和感
2026年6月3日、社会保障国民会議の実務者会議で、経済産業省が一つの調査結果を示します。飲食料品の税率を変更する場合、小売の現場でレジシステムの改修が必要になる。その準備にどれだけの期間を要するか。
同省が同年4月から、レジの改修を手がける事業者や小売業者に聞き取りを進めた結果、示された数字は、こうです。税率を1%にする場合、最大で5、6カ月程度かかる。ところが、ゼロにする場合は、最大で10カ月から1年程度かかる――。
その理由として説明されたのは、機械の仕様でした。大手スーパーやコンビニエンスストアが採用しているターミナルPOSレジは、全国におよそ70万台。これらは0%という税率を想定して作られていない。非課税との区別も難しく、そもそもゼロという数字が入力できないものもある。改修後のテスト作業だけで3、4カ月を要する――。この報告が、決定打となりました。
物価高に苦しむ家計に、一日でも早く救いの手を届けなければならない。ゼロにこだわって1年待たせるより、1%で半年後に実行したほうがよい。会議の空気は、ここから一気に「1%」へと傾いていきます。高市首相が繰り返し口にしてきた「迅速性と十分性の両立」という言葉の、迅速性とは、まさにこのことでした。
筆者は、この説明に釈然としないものを感じています。
本当にレジの改修に1年かかるのか
たしかに、レジのシステムは複雑でしょう。全国70万台という数字も、決して小さくはありません。しかし、考えてみてください。この国の小売の現場は、2019年に軽減税率という前例のない仕組みを導入し、10%と8%という2つの税率を同時に扱えるようにしました。
2023年にはインボイス制度が始まり、請求書の様式そのものが変わりました。それらの大仕事を、現場はこなしてきたのです。
税率をゼロにするという設定変更に、本当に1年もかかるものでしょうか。もちろん、筆者はシステムの専門家ではありません。現場の実務を知り尽くしているわけでもない。この数字が誤りだと断定するつもりはありません。
ただ、事実として指摘しておきたいことがあります。この調査は、経済産業省が実施したものです。そして聞き取りの相手は、レジの改修を請け負う事業者と、小売の業界団体でした。作業を担う側に「どれくらいかかりますか」と尋ねれば、余裕を持った日数が返ってくるのは、ごく自然なことでしょう。
そして、この報告が示された会議で、ゼロという選択肢は事実上、消えました。
国民が選挙で託した数字が、「レジの改修期間」という技術的な理由によって退けられていく。その光景を、筆者はどうしても、素直に受け取ることができないのです。

