運動と睡眠は効果を期待できる

病院に行けば病気が治る。多くの人はそう信じているようです。でも、医師は万能ではありません。魔法使いでもありません。

井原裕『精神科医が発達障害・いじめ・不登校に悩む親に伝えたい わが子のこころの見守りかた』(ウェッジ)
井原裕『精神科医が発達障害・いじめ・不登校に悩む親に伝えたい わが子のこころの見守りかた』(ウェッジ)

心臓外科医ならば「手術によって心臓の病気を治す」ことはできるでしょう。しかし精神科医の場合、手術を行うことはありません。発達障害を薬で治すわけでもありません。精神科医がすることといえば、「こうしたほうがいいですよ」「次はこうしてみましょうか」といった提案や助言にすぎません。それを実行するのは、患者さん自身です。患者さんが自らアクションを起こさない限り、事態は変わりません。

が、大人であれ、子どもであれ、発達障害の人に薬を勧めない理由は前述の通りですが、もう一つ大きな理由があります。それは、生活習慣を見直せば、驚くほど簡単に情緒が安定し、行動も落ち着くものだからです。運動させれば疲れます。適度な疲労は情緒を安定させます。そのうえ、質のいい睡眠をもたらします。睡眠が翌日のこころの落ち着きをもたらすことは、言うまでもありません。

運動と睡眠は、効果を期待できます。ここでは、こころの健康のポイントが生活習慣の改善にあることを確認しておきたいと思います。

睡眠不足だと「逸脱行動」が強く出る傾向

発達障害の子は、確かに逸脱行動を呈します。そして、それらは睡眠不足だとより強く出る傾向があります。注意欠如多動症の子であれば、睡眠不足のときに多動、不注意、衝動性といった症状がより強く現れてしまいます。自閉スペクトラム症の子は、睡眠不足だと、イライラしやすく、状況の判断ができなくなり、人の気持ちを察することができなくなるなどして、結果として対人トラブルを起こしやすくなります。逆に十分に眠っておれば、情緒が安定し、状況判断も的確になり、短絡的な行動は減っていきます。

この点は、実は、健常者でも同じであり、それどころか大人でも同じです。寝不足が続くと、頭がぼんやりして判断力が鈍ったり、イライラして切れやすくなります。すぐ切れるパワハラ上司は、同時に寝不足自慢する短時間睡眠者であることが多い。寝不足だと感情にブレーキがかからなくなるのです。大人もそう、健常者もそう。発達障害者の子どもだって同じことです。

逆にいえば、注意欠如多動症の子も、自閉スペクトラム症の子も、十分な睡眠をとれば、特有の行動症状を最小化することができるのです。