答案用紙の余白にこそ原石はある
スーパー30を成功させるためには、単にテストの点数が良い子供を集めるだけでは不十分であることを、アナンドは誰よりも理解していた。彼らには、極限の環境を生き抜くための「精神的なレジリエンス(回復力)」が必要だと考えた。アナンドは、このプログラムの強固な基盤となる、多段階の厳格な選抜プロセスを構築した。
1.全州規模のスクリーニング
毎年5月、スーパー30はビハール州の主要都市で選抜試験を実施した。州の最も貧しく、最も取り残された地域から、数千人もの志願者たちがパトナを目指して旅立った。多くの子供たちが、何キロもの道を徒歩で移動し、あるいはバスの屋根にしがみついて試験会場へとやってきた。
試験問題はすべてアナンド自身が作成した。それは、都会の裕福な私立学校のような、高度で複雑な公式の暗記を問うものではなかった。代わりに、論理的思考力、パターンの認識、そして直感的な幾何学的・代数的な直感を測る問題が並んでいた。アナンドが求めていたのは、まだ磨かれていない「原石」としての頭脳であり、既存の枠にとらわれない思考ができる人間であった。
2.思考プロセスの厳格な評価
筆記試験が終了すると、アナンドは成績優秀者の答案用紙を1枚ずつ、何時間もかけて精査した。彼は、数式が綺麗に整理された「正解」だけを求めていたわけではない。彼が最も注目したのは、答案用紙の「余白」に書かれた、書き殴られた計算や図形であった。
もし、ある生徒が難しい問題に対して、教科書に載っていない独自のルートでアプローチしようとした形跡があれば、たとえ最後の計算ミスで答えが間違っていたとしても、アナンドはその答案に高い評価を与えた。彼は、機械的な暗記による成功よりも、創造的な挑戦のプロセスと、それに伴う失敗のほうを遥かに高く評価したのである。
リキシャの運転手、レンガ職人…貧しい家庭の子供たち
3.家庭訪問による「経済状況監査」
スーパー30が有名になるにつれ、裕福な家庭が子供を無料で最高峰の塾に通わせるために、貧困を偽装して応募してくるケースが急増した。これを完全に防ぐため、アナンドの弟プラナヴは、最終候補に残った生徒たちの実家がある人里離れた農村へ、自らバイクを駆ってアポなしで訪問した。
・ 家族が本当に耕作地を持っていない小作農であるかを確認する。
・ コンクリート製のしっかりした家ではなく、泥と藁でできた家に住んでいるかを見る。
・ 近隣の住民に聞き込みを行い、借金の有無や日々の生活状況を徹底的にリサーチする。
この徹底的な身体的、経済的、そして精神的な確認作業を経て、真に支援を必要としている小作農、リキシャの運転手、石切り工、レンガ職人の子供たちの中から、運命の「黄金の30人」が決定されたのである。


