●お金に煩わされない価値観を

同様に保険も見直す価値は大いにあります。この家庭は月々4万5000円も保険料を払っている。おそらく医療保険にも加入していると推察できますが、生命保険が本当に必要なのは、蓄えのない夫婦に子どもがいる場合の、最低限の死亡保障の保険だけです。その他は不要です。医療保険などは5000円の治療費を1万円で買うような「損な賭け」です。通常の健康保険に加入していれば不要です。

最後に、この家庭で目を引くのは、年収ゼロ円の51歳の主婦の存在です。そもそも母親が専業主婦として何かと世話を焼くから、2人の子どももなかなか独立しないのかもしれません。息子たちはさっさと家を追い出して自立させましょう。これが最大の問題点かもしれません。また、すでに働いているサラリーマンの年収を1年で100万円アップさせることは難しくても、年収ゼロの人ならそれも可能です。少々、妻子に厳しく接してこの妻に働いてもらえれば、万が一、大黒柱に何かあっても妻が生きていく手段も確保できるので、将来の保険的効果もあります。全体的にこの家庭に必要なのは、「生活のリサイズ」です。この生活レベルを退職後も維持することは難しく、今から無駄に肥大した出費癖をなおしておいたほうが賢明です。

世間では「老後難民」などという言葉で将来の不安をあおる風潮もありますが、自分の将来が不安な人には、大きな100円ショップをくまなく歩いてみることをお勧めします。下らないものもあれば、100円で採算が取れるのかと驚くような商品もあり、生産性が飛躍的に向上している様子が見て取れます。かつてに比べればエンゲル係数は落ちており、食べるためだけに働くという状況をもはや日本は脱しつつあります。現役時代の生活レベルを老後も維持しようとすればたくさんのお金が必要ですが、生活の不要部分を削りさえすれば、ことさら不安におびえず生活することができるはずです。

そのためには現代的ではないかもしれませんが、現金主義も一つの方法です。月の小遣いが8万円なら2週間おきに4万円ずつおろしていく。吸った息をどれだけ吐いていいのか体が自然にわかるように、いくら使えて、どの程度使うと足りなくなるかが感覚的にわかるようにしましょう。

老後は、お金について煩わされない生活が一番です。日々の生活に汲々としないように、今から生活のぜい肉を落としておくことが大切です。

楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元
経済評論家・マイベンチマーク代表取締役。1958年、北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。著書に『お金の教室』など多数。
(構成=三浦愛美 撮影=大野真也)
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