3万円でも2万円でも批判を招く
想定される価格水準は2つある。
一つは、25年産の米価(相対取引価格)である。直近8月の3万2000円か年産平均の3万5000円とするか、幅はあるが、3万円台の価格とする考えである。これは26年産米でなくあえて25年産米と農水省が指定したことからも推測できる。また、JA農協としては在庫を縮小したうえで、赤字の投げ売りにならない。農水省は自民党農林族議員に褒められる。
しかし、3万円で買い戻すと、莫大な財政負担が生じてしまう。少し待てば、価格は下がるのに、なぜわざわざ国の財政でJA農協救済をするのかという批判が起きる。これについて、私は何度も警鐘を鳴らしてきた。国民の批判が気になるはずだ。また、高い価格とすることには、後述するように、JA農協にとって別の意味で不都合な事情が出てきた。
もう一つは、今年5月に一般競争入札にかけた26年産米の備蓄米買い入れ落札価格の2万円とすることである。江藤米の売り渡し価格は2万2000円だったので、差益が生じる。財務省としては異存ない。
しかし、この場合は、25年産米の価格が今の3万2000円から2万円に低下することを農水省が容認したことになり、一気に値崩れ、投げ売りが進んでしまう可能性がある。JA農協は昨年秋に25年産米について農家に3万円近い概算金を払っている。農家から米価低落分の返還を求めなければならなくなる。
いずれにしても批判は免れず、価格を非公表としたのだろう。
買戻し価格をどう推測するか
以下は筆者の推測である。今後のコメ政策がどのように進むのか、考えを示したい。
今回の買戻し(21万トン)は、農水省が提示した条件に対し、より安い価格を提示した業者から契約される仕組みだ。圧倒的なシェアを持つJA農協も多くを契約するだろうが、世間の批判を避けるため、価格はある程度下げざるを得ない。すでに在庫を抱えた卸業者は損切り(2万円程度)で25年産米を手放し始めており、一部のスーパーでは精米5キロ2500円で売られ始めている。
これから流通の主役となる26年産米について、JA農協が死守したい「防衛線」は玄米60キロあたり2万円だ。今年5月に26年産の備蓄米が落札された水準であり、農家の反発を招かないギリギリの適正価格でもある。
実は、過剰在庫を国に買い取らせるためにも、この「2万円」という設定が必須となる。農水省の推計では、来年6月末時点で約95万トンの過剰在庫が発生する見込みだ(※3)。「備蓄米100万トン体制」を満たすなら、およそ80万トンの追加買戻しが必要で、この過剰在庫を吸収できる。
だが、国の予算(備蓄米関連予算)には限りがある。筆者の試算では、買戻し価格がバブル米価のまま(3万円など)では予算オーバーで買い切れず、「2万円」まで下げて初めて80万トンの過剰在庫を国に処理してもらえる計算になるのだ(※4)。
バブル米価(25年産)を2万円で政府に売れば、農家へ支払い済みの概算金(前払い金)を取り戻すなどの調整が必要になる。だが、JAは今回のコメ騒動でマージンを急拡大させており、子会社の全農物流は前期比235%の営業利益を計上した。さらに金融事業(信用・共済)の黒字で補填できる懐の深さもあるため、この程度の調整は十分に乗り切れるはずだ。
※3 従来から6月末時点の在庫の適正水準は180万~200万トンとされてきた。「食料・農業・農村政策審議会食糧部会 資料(令和8年9月2日開催)」には、今年産の生産見込み等から来年6月末の水準を267万トンから304万トンと推計。中間値で95万トンの過剰在庫がある。
※4 26年度予算では備蓄米に1998億円計上している。現在政府が保有している32万トンの在庫保管に必要な費用は32億円。これをエサに処分すれば100億円の益が生じる。すでに26年産米の買い入れに700億円(買い入れ価格2万円÷0.06=33万円〔トン当たり〕×21万トン)使う予定なので、1360億円ほど残りがある。今回の21万トンを入れて、 3万円(トン当たり50万円)で買い戻すとすれば27万トン、2万円(同33万円)の時は41万トン。2万円の場合でも79万トンには届かないが、農水省は27年度備蓄米対策として1838億円の予算要求を行っている。通常の備蓄運営でも、売買差損と保管費を合わせた年間負担は、私の試算では約533億円になる。買い入れ価格が2万円で1300億円を買い入れにあてるとすれば39万トン買い入れることができる。合わせて80万トン買戻し(買い増し)できる。

