もし中国が核攻撃で報復できたら…

米国の「核の傘」とは、簡単に言えば「同盟国が核攻撃されれば、米国が核で報復する」という約束である。だが相手が米本土を核攻撃できる能力を持てば、話は変わる。

台湾や日本を守るために北京へ核攻撃を行えば、ニューヨークが、ワシントンが、ロサンゼルスが核攻撃されるかもしれない。それでも米大統領は核のボタンを押すのか。冷戦時代から「拡大抑止」が抱えてきた本質的矛盾である。

私はもともと、日本で長年当然のように語られてきた「米国の核の傘」なるものは、きわめて疑わしい概念だったと考えている。そして今回、中国が潜水艦から米本土を狙える戦略核攻撃能力を実演したことで、少なくとも対中抑止という文脈では、その傘は名実ともに消滅したと見る。

これは「中国が明日核攻撃をする」という話ではない。逆である。中国が米国を核攻撃できるからこそ、米国は中国との直接衝突をためらう。これこそが核抑止の意味なのだ。中国のSLBMは、台湾有事において米軍を遠ざけるための、きわめて強力な政治的武器でもある。

兵器の在庫を元に戻すには「数年」

その米国は現在、別の場所で急速に力を消耗している。イラン戦争である。

CSISは、イランとの戦闘でPatriotやTHAAD、Tomahawk、Standard Missile、JASSMなど、中国との西太平洋戦争でも不可欠となる兵器が大量に消費されたと分析している。7月末時点のCSISによる公開情報ベースの推計では、Patriot迎撃弾の在庫は759~827発まで減少した。開戦前の推計約2330発から、少なくとも65%の減少である。THAADも開戦前の推計約452発から234~278発に減少した。

重要なのは、ミサイルは自動車のように短期間で増産できないという点である。Tomahawk、THAAD、Patriotなどの在庫を元の水準に戻すには数年を要するとCSISは試算する。そのうえでCSISは、イラン戦争による弾薬消耗が、西太平洋での紛争に対する米国の「window of vulnerability」――脆弱性の窓――を生み出したと明言している。

米ドル紙幣と星条旗のうえに無数の弾丸
写真=iStock.com/Olena Bartienieva
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象徴的なのが、空母USSジョージ・ワシントンである。日本の横須賀を母港とし、西太平洋に前方展開する米海軍唯一の空母で、第7艦隊の中核戦力だ。

同艦は5月に横須賀を出港して西太平洋で活動していたが、8月には針路を西へ転じ、19日に米中央軍の管轄区域に入り、20日にはアラビア海での航行が確認された。イラン戦争のOperation Epic Furyを支援してきたUSSエイブラハム・リンカーンと交代し、対イラン作戦を継続するためである。

これは「米国には空母が何隻あるか」という単純な数の問題ではない。本来、中国を抑止するため西太平洋に前方展開されている唯一の空母までが、中東の戦争に吸い寄せられたのである。

北京がこれを見ていないはずがない。