ドイツのナチズム研究に足りない視点
【川口】本当にナチズムを反省するなら、悪いところも良いところも徹底的に研究するべきです。ちなみに、AfD(ドイツのための選択肢)の政治家の中には、「ナチに『絶対悪』などというレッテルを貼って思考停止するのは欺瞞だ」と考えている人たちがいるようで、それを既存の政治家やメディアが察知して、「ナチ」だと叩く理由の一つにしているわけです。
【ヴィズマーラ】イタリアでは、1946年の段階で、ムッソリーニの熱狂的な信奉者や旧サロ共和国の幹部たちが集まり、「イタリア社会運動(MSI)」というネオ・ファシズム政党を堂々と結成しました。
憲法上は「ファシスト党の再建」は禁止されていましたが、彼らは名前を変え、民主主義のルールに従うふりをすることで、戦後政治の中で一定の議席(数%〜10%程度)を維持し続けているのです。
なぜかというと、冷戦期もイタリアならではの「サバイバル(現実主義)」が働いているからです。
ヒトラーとムッソリーニの決定的な違い
【ヴィズマーラ】西側最大の共産党(PCI)を抱えるイタリアにおいて、与党の中道右派「キリスト教民主党」や、その背後にいたアメリカにとって、MSIという右翼勢力は「共産主義の拡大を防ぐための、いざという時の防波堤」として、あえて完全に潰さずに生かしておく価値があったのです。
このMSIの系譜が、のちに穏健化のグラデーションを経て、現在のメローニ首相率いるFdI(イタリアの同胞)へと直結しています。
もう一つの大きな要因は、ムッソリーニのファシズムが、ヒトラーのナチズムに比べて「思想的な純血主義や狂信性が著しく低かった」こともあるかと思います。
ナチズムの本質は「人種主義(ユダヤ人の絶滅)」という普遍的なドグマでした。しかし、ムッソリーニの初期のファシズムは、国家の権威、「国家至上主義」を重んじるものの、人種論は中心にありません(ただし、後年、ヒトラーとの同盟後に反ユダヤ法を導入したため、これがイタリア人にとって「最大の汚点・脱線」とみなされることになりますが)。

