※本稿は、田口善弘『見えないものを信じる力 物理で世界を読む』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
「時間の進み方はどこでも同じ」という当たり前
我々にとって時間や空間が固定されている(つまり、時間や空間は一つだけで、時間はどこでも同じように進み、空間は伸びたり縮んだりせず常に静止している)ということは、あまりにも当たり前すぎる。旅に出て3日経ったら、帰宅しても同じ3日の時間が経っている。昨日行った場所には、今日同じ道筋をたどれば到着する。しかし、冷静に考えてみると、こうでなくてはいけないという道理はないだろう。
旅に出て3日後に帰ったあと、「ここでは4日経っているよ」と言われても、自分の直感だけでは反論のしようもない。同じ場所に行ったつもりが全然違う所にたどり着いても、これは自分の記憶違いなのか、それとも場所のほうが変わってしまったのか、俄かには判断が難しい。
ニュートン力学の大前提は「時間と空間は動かない」
ニュートンの力学は、運動の三法則や万有引力の法則などが有名だが、実はニュートン力学でいちばん画期的なのは、時空間の固定という発見(固定と定義したこと)なのである。ニュートンの万有引力の発見で、天空も地上も同じ法則で支配されていることがわかった。ということは、時間や空間に断続があってはならないことになる。旅に出ている3日の間に自宅では4日経っていたら、旅先と自宅では時間の経過が違ってしまう。
それでは、旅先と自宅では時間がどうずれているのだろう? どこかに境界があってその両側で時間のずれがあるのか? それとも、連続的にゆっくりと時間の進み方が変わっているのだろうか?
いずれにせよ、時間の進み方が場所によって違うのでは大問題だ。地元では時速60kmで走っている車の速度が、旅先では時速50kmになったり時速70kmになったりすることになる。これでは場所によって運動エネルギーの大きさが変わってしまい、エネルギー保存則に反する事態が起きてしまう。
そんな面倒なことを考えるより、時間の進み方はどこでも一定だし、空間も不変だと考えたほうがいい。そんなわけでニュートン以降、全宇宙にはたった一つの時間とたった一つの空間座標しかないのが暗黙の了解になった。

