ラスコーの壁画はなぜ特異的なのか
橘:具体的には、どういった例でしょう?
安藤:一例が、ラスコーの壁画だと考えています。2万年も前にあれほど躍動感のある、芸術的なウマやウシやバイソンの絵が描けた。宗教的儀式と言うけれど、あんな暗いところでやるはずがありません。多くの人が見ていたなら「私も描いてみよう」と技術を真似し、教えたり教わったりする人が出てきてもおかしくないでしょう。国宝級のものがたくさん作られた日本の縄文時代と違い、ラスコーの壁画に類例がないのは、何百年、何千年に一度しか出てこないからではないでしょうか。
おそらく描いたのはたった一人で、サヴァン症候群のような特殊な才能の人が描き、しかし誰も理解できず、描いたことさえ知られなかった。そして、その遺伝的変異は、残念ながら残らなかったというわけです。
だけど、人口が増えるにつれて、突出した才能が作り出したものを「真似してみたい」という人が出てきて、外れ値だったものが文化に取り込まれていく形で文明は発達します。
天才とまれな遺伝子の価値はすごく評価される。その機能を想定するのは、荒唐無稽な話ではないと思うんですね。
(構成=ライター・編集者、井上英樹)
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