ひとつの遺伝子がいろんな性質に影響する

河田:因子分析で分けると、知能はだいたい1つの軸に乗りますが、性格は5つに分かれ、互いに相関している。精神疾患も、同じゲノム配列が複数に影響している。遺伝子ネットワークといって、さまざまな遺伝子が相互作用しながら性格などを作るので、1つの遺伝子はいろんな性質に影響しています。

橘:ゲノムのネットワークの中で何かが動くと、ほかのものも動いてしまう、と。複雑系のバタフライ効果みたいな感じですか。

河田:そうですね。ある性質に直接つながっている手前の遺伝子は、その性質に大きな影響を与えます。一方、そこから枝分かれして遠くにつながっている遺伝子は、一つひとつの影響は小さいものの、いろいろな性質に幅広くつながっている、と言われています。

安藤:サッカーで喩えると、チームの強さなのか、選手個々の強さの足し算なのか。どちらとも言えないのと同じです。1人がケガをしても、ほかが補ったり新しい戦略を生み出したりして、一定の強さは出せる。個々の働きとネットワークが全体を支えている。脳もそういうものなんじゃないかと。

頭脳とネットワークのイメージ
写真=iStock.com/metamorworks
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テストをしなくても知能の高低がわかる

橘:ゲノムは一種のネットワークで、そこにはいくつかのハブがある。そのハブがジェネラリスト遺伝子(群)として、認知能力から性格、精神疾患まで、さまざまな心の機能に影響を与えているというイメージでしょうか。

安藤:はい。確率的な話ですが、最近の研究では遺伝子からGファクター(全ての知的作業に共通して必要な一般知能)をつなぐハブは一応あると。

IQは、推理力・記憶力・読解・空間能力といった得点から統計的に導き出した指標。確率的な現象ですが実体はあって、その脳の対応物も、前頭前野と頭頂葉のネットワークの協調性でかなり説明できます。

橘:安藤さんは『教育脳 遺伝的才能と〈あなた〉に必要な学習を語ろう』(大和書房)などで、認知能力というのは前頭葉・頭頂葉・小脳をつなぐ中央実行ネットワーク(※)のことだと書かれてますよね。それがどの程度効率的に動くかは、計測できるんですか。

※=脳のワーキングメモリ(作業記憶)の中心にある、注意のコントロールや情報の処理を行う司令塔の役割を持つしくみ。実行機能ともいう。

安藤:ワーキングメモリの課題やパズルをやっているとき、同じ人にMRIをやると、だいたい重なる部位があって、それが前頭葉と頭頂部と小脳に関わってくるんです。

橘:つまり、テストをやらなくても、脳の中央実行ネットワークを調べれば知能の高低がわかる?

安藤:わかると思います。ただ、一番安くて確実なのはテストをやること。子どものときのDNA検査でも東大合格は15パーセントくらい予測できるけれど、直前の模試のほうが確率は高いし手間もかからない(笑)