認知能力は強く遺伝の影響を受ける

橘:一般に認知能力の遺伝率は50パーセント、年齢を重ねると70パーセントくらいまで上がると言われます。ところが安藤さんは、著書で中央実行ネットワークの遺伝率が90パーセントもあると指摘している。これは、認知能力はほぼ遺伝で決まっている、ということでしょうか。

安藤:「決まっている」という表現は、決定論を連想させるので、「影響を受ける」と言い換えていますが、この場合は「強く遺伝の影響を受けている」といえますね。

各部位の遺伝率を見ると、前頭前野と頭頂は特に高く、デフォルトモードネットワークや内側側頭は相対的には低くて、そこには個人的な経験も反映されます。さらに血流の相関やその速さの個人差をふたごで調べると、前頭と頭頂、右と左のネットワークの同調と周波数の個人差は、ほぼ100パーセント遺伝的なんです。

これはコンピューターのCPUは買ってきたときに決まっていて、そこにどんなソフトを入れるかで、何が得意かは違ってくる、というところですね。

家電量販店に陳列されるノートパソコン
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人間だけが自閉症になるワケ

河田:遺伝的影響の高い認知能力を、進化の中でどう獲得してきたか、という話ですが、最近、ヒトとネアンデルタール人、チンパンジーのゲノムを比べてHAR(ヒト加速領域=ヒトだけで急速に変化したゲノム領域)が同定され、その近くに統合失調症に関係する遺伝子が結構あることがわかっています。統合失調症は知能に関係しているんです。

安藤:あと自閉症もですよね。

河田:はい。ヒトの脳が拡大するなかで、統合失調症に関係する遺伝子は知能と関係していますし、自閉症に関係する遺伝子は、他人の心を理解する力や他人と関係する心の性質として進化してきました。ヒトで急速に進化した遺伝子の多くは神経細胞や接続を増やす役割を持つと検証されています。

今のAIが非常に高い能力を発揮できたのは、画像解析の国際コンテスト(ImageNet)でトロント大学のチームがGPU(画像処理装置)を活用してディープラーニングの有効性を示し、さらに近年、GPUをできるだけ多く使って、パラメーター数を増やせば増やすほど能力が上がっていくことがわかったからです。

脳もおそらく、細胞数や神経接続が圧倒的に増えることによって、今までできなかったことができるようになったと考えられます。

結局人間は、人間しか持っていない能力を突如獲得したのではなく、神経細胞や接続が増えていくなかで、AIがそうであるように、今まで予想もつかなかった推論能力や知能が発揮できるようになったんじゃないかと思っています。