脳内で行われている微妙なバランス調整

安藤:それね、河田さんの本を読む前から、僕もそうじゃないかなあと思っていました。人の脳の特異性は、一つは離れたイメージを結びつけられること。創発や発明につながるけれど、行き過ぎるととんでもないものを結びつける。

その微妙なバランスの中で、いろんな概念を連合させられる。それが文化を創造し、その行き過ぎが統合失調症です。

もう一つはブレーキをかける抑制で、抑制しすぎると、うつになり社会的関係を断つ。両方とも、人を人たらしめると同時に、あまりに極端になりすぎると病気になる連続体の上にある、と。

橘:これまで統合失調症は精神疾患で、自閉症は発達障害だから、まったく別のものだとされてきたのですが、そこに強いつながりがあるというのは大きな発見ですね。統合失調症と自閉症はコインの裏表のような関係だと思えばいいんですか?

河田:進化心理学では、それぞれ対応するモジュールがあると仮定していました。でも遺伝子で調べると、自閉症と統合失調症には約20〜30パーセント共通する遺伝子があり、それぞれ独自に働く部分もある。そういう形で知能や社会的推論が進化してきたと考えられます。

やっぱり天才は環境では生まれない

安藤:人が何十億人といる中で、本当に一つだけの変異が、その人にとって致死的でなく、非常に特異な才能として発揮されたかもしれない。でも、同じものを持つ人が他に誰もいない変異は、やっぱり残らないわけです。

河田雅圭『心はどこまで進化したのか』(河出書房新社)
河田雅圭『心はどこまで進化したのか』(河出書房新社)

河田:親から子へ行くとき、ゲノム中にだいたい200の変異が起こっているんです。すぐ死ぬような変異は取り除かれますが、そうでないものは数世代残る。まれな変異ほど効果が大きい、つまり性質に与える影響が大きい。その人しか持たない遺伝子は、逆に影響の大きい遺伝子である可能性があるんです。

橘:それが個性の多様性を作っている。

河田:その一つですね。

安藤:「遺伝」っていう学問は嫌われるんですよね(笑)。なので、「遺伝ってすてき」と思われるような事例をお話ししましょう。それが天才の出現です。ほとんどの人が成し得ない業績を出す人が、文化のあらゆる領域で生まれてきます。「天」才という言葉自体、遺伝を内包しているじゃないか、と思うくらい。環境にないものを天が作り出すのだから、環境によるものではないんです。

もう一つ重要なのは、遺伝的な能動性です。脳は受動的に学習する臓器ではなく、能動的に世界を予測して作り出す。多くの人はその能動性を環境に適応するために使い果たしてしまうけれど、一部の人は環境を変えたり新しいものを作ったりする。だけど誰にも理解されず、人知れず亡くなることもあります。