育ててきた「中国AI産業の宝」の裏切り

習氏が長期の権力基盤を築き、国際社会への影響力を強める上で、AIやレアアースの重要性は高まっている。

きっかけの一つとして、習氏は米メタによるAI新興の「マナス」買収を問題視したといわれている。

一時期、マナスは、中国AI産業の宝の一つとして注目を集めた。2022年に北京で創業したマナスは、自律的に作業を行うエージェント型AIモデルの開発に競争力を発揮した。創業者の努力が、世界トップクラスのモデル開発を支えたようだ。

それに加え、習政権のAI関連政策も、同社の成長に多大な影響を与えた。自然科学系の高度人材育成策、さらにはAIスタートアップ企業向けの手厚い支援策などだ。習政権は水面下で米エヌビディアの画像処理半導体(GPU)などを入手し、推論モデル開発をサポートしたともいわれている。

ところが、2025年、同社は本拠点をシンガポールに移した。今年3月、中国政府は創業者や幹部の出国を禁止し、4月にはマナス買収を認めないと発表した。

青い電子回路の上に置かれた、中国国旗柄の中国地図型マイクロチップの3Dイラスト
写真=iStock.com/kritsapong jieantaratip
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入るのは大歓迎、出ていくのは許さない

習氏にとって、マナス経営陣の意思決定は重大な裏切り行為に映っただろう。自国製の推論モデルが米国企業に流出することの阻止に加え、創業経営者の海外移転・脱中国は容認し得ないはずだ。マナスの買収禁止令で、習氏は自らの意向に反する行為を厳格に取り締まる姿勢を示したといえる。

より大きな視点で見ると、習政権は、先端分野などでの人材の出入国管理を厳格化することで、自国の経済安全保障、さらには米国との覇権争いを念頭に置いているはずだ。

中国は、世界のレアアース製錬シェアの9割超を確保した。わが国などがコスト面で中国に太刀打ちすることは難しい。つまり、中国が世界のレアアースの市場を完全に牛耳る。そういう状況を作りたいのだろう。

一方、習政権は、中国に入ってくる人(海外の研究者、特に中国系人材)は歓迎する方針を明確にした。2025年10月、中国政府が開始した「Kビザ」は、自然科学分野の若手人材を対象とした新しい査証制度だ。Kビザ開始は、米国が専門職を対象とする「H-1Bビザ」の申請手数料を引き上げたタイミングとほぼ同じだった。