「普通の安心」はどこに行ったのか
昔の「普通の家庭」は、決して裕福ではありませんでした。家は狭いながらも子どもは何人かいて、親ができる範囲で育てていました。不満がないわけではありませんでしたが、9割が中流意識を持つ中での「“なんとかなる”という普通の安心」がありました。
ところが今は、子育てにお金がかかる、それなりの広さの住宅を買おうにも手の届く価格を大幅に超えている、家計のためには夫婦でフルタイムの共働きを維持しないといけない。だとするならば、結婚する相手の経済力は重要になる。婚活では女性だけではなく、男性もまた相手の年収などを見るような状況になっています。
そんなメカニズムによって「結婚と子育てに対する意識のインフレ」が顕著になります。それどころか、もはや「お金がなければ恋愛もできない」と若者は考えるようになってしまいました。そして、実際にその通りに、経済階級上位層しか恋愛も結婚も出産もできなくなっています。
恋愛すら「リスク」の時代に
本来、「社会全体で子どもを育てる」という理念は、かつて家族や親族、地域、職場などが担っていた「助け合い」を社会全体に拡張するというものだったはず。ところが、皮肉にも子育て支援偏重の少子化対策によって「子育てが価格化」され、給付や無償化がされればされるほど「子育てにはお金がかかる」という呪いを強化していったようなものです。
「困ったときに誰かが助けてくれる」というかつての安心は弱まり、その安心すらお金で買わなければならなくなっています。そんな環境では、若者が「お金がなければ結婚できない」「自分の収入で結婚なんてリスクだ」と考えるのは当然です。
問題は、そこで終わらないことです。結婚だけではなく、恋愛までリスクになっています。かつて「結婚のきっかけ」の大きな比重を果たしていたのは職場結婚でしたが、今では職場での恋愛はセクハラ扱いになるリスクがあり、とてもできなくなっています。
かといって、マッチングアプリをやっても、そこで恩恵があるのは一部の恋愛強者だけで、年収や写真などプロフィール上の数字的魅力がない者は「マッチングアプリなのに誰ともマッチングされない」状況で、単に時間と金と自尊心を削るだけのものになっています。
それだけではなく、その利用に際し「トラブルとマッチングされる割合」が男性58.5%、女性59.7%もある(三菱UFJリサーチ&コンサルティング2021年「マッチングアプリの動向整理」より)というデータもあり、もはや「相手ではなくトラブルとマッチングされるリスク」があるなら敬遠するでしょう。

