「障害」をもつ人が次々に安楽死を選択
このニュースが流れるや否や、激怒した障害者たちが議会を取り囲み、90以上の障害者団体が共同声明を発表、「十分な福祉やサポートがない中で、安楽死という選択肢を示すのは、国が『死ね』と強制するのと同じ」と訴える騒ぎになった。
彼らが求めていたのは、政府が善意で差し出す「死ぬ権利」ではなく、「尊厳を持って生きる権利」だったからだ。
だが、路上で叫ぶ障害者たちの「生かしてくれ」という悲鳴は、国内のリベラル左翼が掲げる「平等の権利」という大合唱にかき消されてゆく。
ハクスリーの『すばらしい新世界』の住人たちが、老化や病という不快をシステムから排除することを「当然の権利」としたように、カナダの世論もまた、コストのかかる生よりも、効率的な死を「人道的」と言い換えたのだった。
この法改正以降、カナダの末期ではない患者の安楽死人口は2022年で463人だったのが、2023年には622人、2024年には732人とみるみる上昇している。2024年には末期ではない患者の増加率(17%)が末期患者を上回り、その6割以上が、本来なら適切な福祉や治療、緩和ケアが必要な「障害」を持つ国民だった。
承認当日に「スピード安楽死」
カナダ政府が2021年に行ったルール変更は、「安楽死の対象拡大」だけではない。それまでは申請から承認まで10日間の熟考期間が設けられていた。人は死にたいと思っても、直前までさまざまな理由で気が変わるからだ。
だが政府はこの期間を「非効率」とみなし、死が予見可能で、患者の苦痛が証明できれば「熟考期間は必要ない」として、撤廃したのだ。
2024年のオンタリオ州報告書によると、2023年に承認から24〜48時間以内に安楽死を受けた人が200人以上にのぼり、記録された219件のうち約30%が承認当日に実行されていた。社会福祉サービスの提供より「安楽死の手続き」の方が早いのだ。
かつてトルドー首相が「弱い人々を守るブレーキをつけてあるから安全ですよ」と繰り返した言葉は、一体どこへ行ったのか。
本当に死を望んでいるのか、それとも追い詰められているだけなのか――その問いを立ち止まって確かめる時間すら、このシステムは与えてくれなくなった。



