あなたの身近にいる「吸血鬼」とは
皆さんは「吸血鬼」と聞いて、どんな姿を思い浮かべるでしょうか。もともとはヨーロッパの古い民話や伝説に登場する怪物であり、数々の映画やドラマで繰り返し描かれてきたので、「人間の血を吸って生き永らえる存在」というイメージが定着しています。そこから転じて、現在では「他人から不当に利益を吸い上げようとする人」を指す比喩的表現としても使われることがあります。
もしかしたら皆さんの会社にも、吸血鬼のような存在がいるかもしれません。高齢になって自分は年長者だからと、強大な権力や高い報酬は維持し続ける。仕事に関する責任は取らないのに、現場が苦労して生み出す利益は吸い上げていく。そんな人がいたら、「あれは我が社の吸血鬼だね」と言いたくなるでしょう。
意外なことに、古くからの民間伝承では、吸血行為をしない吸血鬼も多く存在するそうです。日本語では英語のvampireを「吸血鬼」と訳すため、ちょっとややこしいのですが、本来の語義としては「悪魔」「魔女」といった意味合いで、埋葬した死体が蘇って人々を襲ったり、十字架やニンニクを恐れるなどの共通点を持つ怪物を指しました。
ではなぜ人間の血を吸う吸血鬼像が定着したのか。それは19世紀末にアイルランドの作家ブラム・ストーカーが出版した小説『ドラキュラ』が、そのイメージを浸透させたからです。
ストーカーは東欧に多く伝わる吸血鬼伝説を参照して本作を執筆しましたが、物語はあくまで彼の創作です。吸血鬼の設定にもオリジナル要素が多く見られ、ドラキュラ伯爵が尖った牙で人間の首に噛みついて血を吸う姿も、その一つです。しかし本作があまりに有名になったため、それが吸血鬼の定番スタイルとして広まったのです。
「吸血鬼に寿命はなく、いつまでも生きつづける。人間の血を吸うことで肥え太り、仲間を増やすのが奴らだ」
「奴には影がなく、鏡にも映らない。そして尋常ならぬ腕力を持つ」
これは作中に登場する博識な老学者が語った吸血鬼の特徴です。権力にものを言わせて自分の手下を増やし、決して自分に逆らわないイエスマンで周囲を固める。表舞台に出ることはなく、一般の人には姿も影も見えないのに、裏では黒幕として絶大な力を振るう。なんだかますます“我が社の吸血鬼”とイメージが重なってきます。
ただし寿命がないとはいえ、吸血鬼を殺す手段がないわけではありません。老学者によると、杭を胸に打ち込んだり、首を切ったりすれば、「奴を真の意味で死にいたらしめることができる」としています。
実際に物語の中盤では、ドラキュラ伯爵に襲われて自らも吸血鬼になり、人を襲い始めたルーシーという女性に、杭を打ち込むシーンが描かれます。彼女はのたうちまわり、悲鳴をあげて暴れ回りますが、やがて動きが止まります。
「そこにいたのはあの忌まわしい怪物ではなかった。(中略)代わりにわれわれがよく知るルーシーが横たわっていた」
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