八代市長との電話

熊本地震が起きた翌日の7月29日朝に現地入りした北川さんが、真っ先に向かったのは被害が大きいと報道された八代市だった。

北川さんは室内用のインスタントルームをレンタカーに積んで、避難所を訪ねた。ダンボール製のインスタントルームは組み立て式で、所要時間15分、要望に合わせて形状を変えることができ、連結も可能な優れもので、寝食可能なプライベートスペースや女性の着替え用スペース、子どもの遊び場などとして能登でも多数導入された実績がある。

ところが、避難所で設置には市役所の公的な許可が必要と言われ、市役所に向かうとすぐに許可を得ることができないとわかった。非常時だからこそ、ルールや手続きを守ることの大切さも理解できる。それでも「その場ですぐに作れて、必ず役に立つものなのに、なんで……」というやり切れない思いを抱えながら、八代市役所を後にした。

7月28日に発生した熊本地震で、石垣40カ所が崩れてしまった
筆者撮影
7月28日に発生した熊本地震で石垣が崩れた八代城跡

すぐに気持ちを切り替え、レンタカーで震度7の被害を受けた氷川町に向かうと、偶然の出会いからとんとん拍子でインスタントハウスを建てることになった。

そのタイミングで、人づてに八代市長・小野泰輔氏の電話番号を受け取った。北川先生と氷川町の動きを知っていたのか、電話をかけると「八代市でも協力してほしい」という依頼だった。

「小野さんは前例主義じゃなく、市民ベースで考えている方だと感じました。電話でお話してから、一気に動き始めましたね」

受付開始から2時間で希望者10人超

そこから何度かの打ち合わせを経て、先述したように八代市役所がインスタントハウス希望者を受け付ける公式な窓口になること、八代市内でも地震の被害が大きかった鏡地区にモデルルームを建てることが決定。8月10日にインスタントハウスを建てると同時に、八代市役所のホームページと市役所や支所で配布するチラシで告知を始めた。

八代市役所
筆者撮影
八代市役所。市がインスタントハウスを希望する人の窓口になった

担当になった住宅課の職員は、インスタントハウスについてこう語る。

「エアコンもついて快適に過ごせるというのは大きいですね。自宅に住めるようになった後も、例えば家の離れや倉庫として使うという活用もできますし、被災者の方の希望になったら嬉しいですね」

八代市役所によると、インスタントハウスの受け付けを始めてわずか2時間で設置希望者は10人を超えた。そのほかに、「モデルルームを見てから決めたい」と見学に来ていた人は10組を超えていた。北川さんによると、8月12日の段階で50世帯が申し込みを終えており、関心の高さが伺える。

八代市内では41カ所の避難所が開設されており(8月4日時点)、被災者が避難できない状況ではない。なぜインスタントハウスを求めるのか、見学者に話を聞くと、それぞれに切実な事情があることがわかった。