ペットと避難できず「まったく熟睡できない」

まず、ペットの問題。八代市ではペットと一緒に避難し、同じスペースで過ごすことができる「ペット同伴避難所」が1カ所開設されている(金剛コミュニティセンター)。

しかし、屋内ではケージなどに入れなくてはならず、鳴き声なども気を遣う。ほかの大勢の人やペットと一緒では落ち着かないという理由で、犬や猫を飼っている人たちは自主避難を選んでいた。犬を飼っている男性は、自宅が倒壊し、発災直後から車中泊を続けていて、「まったく熟睡できない」と訴えていた。

冒頭に記したネコを4匹飼っている夫婦も自宅に住める状況ではないが、4匹をずっとケージに入れたまま避難所で過ごすのは難しいと感じ、日中は庭にタープを張って、屋外で過ごしているという。電気は通っているので扇風機で暑さをしのいでいるものの、午後になると「耐えきれない」と話していた。テレビでインスタントハウスのことを知り、「是が非でも欲しいと思った」と語っている。

被災地では全国から駆け付けた重機が活躍している
筆者撮影
鏡支所の隣に開設された災害ごみの仮置き場

また、自宅が倒壊した被災者は防犯上の心配も大きい。家が潰れ、ある意味、どこからでも入ることができる状態になっているだけでなく、無事だった家財道具をできる限り運び出して外で保管しているため、それを放って避難所に入るのを躊躇してしまうのだ。

今回、話を聞いたなかで最も過酷な状況にあったのは、高齢の母と子どもふたりをひとりで支えている女性。10年前の熊本地震の際、当時幼稚園に通っていた子どもと生まれて2カ月の赤ちゃんを連れて避難所に行ったところ、何度も「うるさい」と注意されて、それがトラウマになってしまったという。

障害を抱える下の子どもは地震を怖がって屋内にいられないため、地震が起きてからずっと庭にテントを張って、寝泊まりしている。日中は暑さから逃れるため、全員を連れて商業施設などで過ごしていると話していた女性の表情は、誰よりも疲労の色が濃かった。

仮設住宅が完成までの空白を埋める

鏡支所に半日いただけで、「避難所に入らない」のではなく、「入れない」人たちが大勢いることがわかった。

能登や熊本の被災地でたくさんの時間を過ごしてきた北川さんは、数え切れないほどの不安や苦痛に触れてきたはずだ。だからこそ、もっとスピーディーに、希望者全員にインスタントハウスがいき渡るような仕組みづくりをしたいと考えている。

インスタントハウスの前で説明する名古屋工業大学教授の北川啓介さん
筆者撮影
必要とする人に素早く届けることで救える命がある、と語る北川さん

「能登では草の根の活動でした。行政と情報共有をしていましたが、ここに欲しい、ここに足りないと手を挙げるのは市民の方でした。今回は行政と連携してお届けできるようになってワンステップ上がったと思うんですけど、さらにワンステップ上げたいんです。いまは頂いた寄付から届けているインスタントハウスを、自治体に備蓄してもらうこと。国がスポットクーラーを300台送るよりも、例えば県単位でインスタントハウスを300棟備蓄してもらったほうが、救える命を救えると思うんです。地域の断熱業者と連携すれば、発災前の設置トレーニングはすぐにできますから」