一致した地方都市の悲願と富豪の野心
恒大が海花島に着工したのは2012年だった。
英経済紙のフィナンシャル・タイムズによれば、儋州市の当局者は海南島南部の観光都市・三亜に並ぶ一大リゾート地を思い描いていたという。地方都市の悲願と、一人の富豪の野心。両者の思惑が一致した。
構想を承認したのは、儋州市の元市長であり、共産党の地方組織のトップにあたる党委書記も務めた張琦(ちょう・き)氏である。
しかし、承認過程には問題があった。ロイター通信によれば、儋州市側は埋め立ての審査を通りやすくするため、用地を36件の小さな事業として違法に分割して受理していたという。
中国では一定の面積を超える埋め立てには中央政府の承認が必要になるが、面積を基準未満に小分けすれば、市の裁量だけで処理できる。海花島の埋め立ては、こうして地元の判断の範囲内に収められ、わずか2営業日でスピード承認された。
計画に終止符を打った習近平の規制強化
ところが、習近平政権によるその後の方針転換を受け、恒大は経営破綻に追い込まれる。
ワシントン・ポストが振り返るように、規制当局が2020年に不動産業界の過剰な借り入れを規制すると、借り入れを頼りに事業を急拡大させてきた恒大は資金調達の道を断たれた。
さらに2021年には開発業者への融資を制限する方針が示され、国有色の強い銀行からの資金供給も途絶える。中国の開発各社は相次いで債務不履行(デフォルト)に陥り、恒大もこれを免れなかった。こうして、海花島で忙しなく動いていた重機の音はぴたりと止まった。
不動産の比重を下げる方針のもと、住宅価格は2021年のピークから約3割下がっている。ブルームバーグによると、失われた家計資産はある試算で18兆ドル(約2870兆円)、日本のGDPの4倍を超える規模にのぼる。
承認した者にも、やがてツケが回った。党委書記として海花島計画を承認した張氏は2020年、汚職で有罪となり終身刑を言い渡された。複数の不動産・インフラ案件に絡み、開発業者らから多額の賄賂を受け取ったとされる。
2021年12月には、建築許可を違法に取得したうえ、環境・建築規制にも違反したとして、海花島の高層マンション39棟・約3900戸に対し、10日以内という厳しい期限付きで撤去命令が出された。だが、命令から数年を経たいまも、その大半は撤去されないまま残されている。

