70歳の購入者は投資額の半分を失った

こうして工事が止まった海花島だが、そこにはすでに人が暮らしている。

海南島の商店街の一角
海花島の商店街の一角(写真=STW932/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

住宅エリアの大通りには、まんじゅうや火鍋を出す中国北方料理の食堂が並び、その先には高齢者向けの介護施設や医療施設が軒を連ねる。こうした島の姿は、開発計画が想定していた理想とまったく異なる。

恒大が手本にしたドバイの人工島、パーム・ジュメイラに集まるのは、日当たりのよい別荘を求めるセレブたちだ。一方で海花島に集まったのは、暖かい土地で冬を越したいと考えた中国北部の定年退職者たちである。

彼らは温暖な気候に加え、物件の値上がりによる差益も当て込んだ。島の物件の販売価格は、2015年から最高値をつけた2021年までに、わずか6年で3倍以上になった。早いうちに安値で買った人ほど、含み益が大きかった。

中国東北部の黒竜江省から来た70歳のある男性は、5年前にマンションの一室を買った。ニューヨーク・タイムズによれば、当時の販売事務所には買い手が殺到していたという。不動産価格の高騰が続くなか、恒大の物件は一般の人が持ち家を手にできる貴重な手段でもあった。

ところが、半ば廃墟となった現在の海花島では物件の価値が大きく目減りし、特に値上がり後に遅れて買った人々は大きな損失を被った。この男性も、いま部屋を手放せば、つぎ込んだ資金の半分を失うという。

かつてのにぎわいはなく、販売事務所はいま静まり返っている。床には古いパンフレットや売買契約書が散らばったままだ。

中国全土に広がる「爛尾楼」

海花島で人々がマイホームを夢見て破綻に終わったこの構図は、内陸の都市にもそのまま当てはまる。

南京郊外の高層マンションの一室を買った61歳の女性は2023年10月、匿名を条件にカタール国営衛星テレビ局のアルジャジーラの取材に応じた。彼女によると、契約は2017年。頭金として販売価格の6割を支払ったという。

老後の蓄えの大半を投じた決め手は、南京に住む娘と2人の孫のすぐそばで暮らせることだった。「販売員がその一帯の開発計画を見せてくれたとき、夫と私が思い描いていた老後が手に入ると思ったのです」と女性は振り返る。

だが2019年、工事が止まった。女性によれば「デベロッパーの資金が尽きたからだと言われた」という。購入から5年がたっても、部屋は未完成のままだ。女性は涙ながらに、「これは私たちだけの話ではありません。残念ながら、中国じゅうで起きているのです」と語る。

彼女と近隣の購入者たちは待ちきれず、水道や電気が通じておらず、ドアや窓すらない部屋に家具を運び込み、共同で仮設トイレを設けて暮らし始めたこともあった。「私たちが移り住んだのはがらんどうの器でしたが、地域として助け合えばやれると考えたのです」

トラブルに巻き込まれているのは、この女性だけではない。中国語で「尻尾の腐ったビル」を意味する爛尾楼と言えば、工事が途中で止まった建物を指す。こうした物件は、都市の中心部や郊外を問わずあちこちに点在する。