選択的注意と質問のフレーミング効果
この変化の背景にあるのが「選択的注意(selective attention)」です。人は膨大な情報の中から特定の側面に注意を向け、その結果として判断や感情が方向づけられます。
「なぜ辞めたいのか」と問われると、注意は否定的情報に集中し、その重みが過大に評価されやすくなります。理由を探す行為自体が都合のよい情報を選択し、既存の辞める態度を強化することがわかっているのです(Kunda,1990)。
また、離職面談に関する研究では、「辞めたい理由」を問う群では離職意向が上昇する一方、「続けられる条件」を問う群では意向が大きく低下することが報告されています(hom et al,2017)。
つまり、質問が注意の方向を変え、その後の意思決定に影響することを示しているのです。
他方、「どうすれば続けられるか」という問いは、改善可能性や肯定的資源に目を向けさせ、認知の再構成を促します。これは認知行動療法の認識の枠を転換する「リフレーミング」とも一致するアプローチです。
離職意向は単なる不満の強さだけでなく、仕事の意味づけや将来の見通しによっても左右されます。
したがって、相手が曖昧な意識の場合の面談では、原因追及よりも選択の幅を広げる問いを用いることが重要です。問いの設計そのものが、意思決定の質を左右するといえるでしょう。


