「並ばない待合室」でなぜ順番把握できるのか
フランスの順番待ちがトラウマになりかけていた頃、私はついに、どうしてフランス人があの「並ばない待合室」で順番を把握できているのか、答えを見つけることができた。
それに気づくことができたのは、意外にも、フランス人が順番待ちで列をなす場でのことだった。
多くの施設が「並ばない待合室方式」を採用しているフランスにも、並ぶ場面はある。例えば、スーパーのレジだ。あそこは、日本と変わらない。ただ単純に並べばいいので、この列に並ぶという時間は、もう順番を覚えようなどと頑張らなくても良い。私にとって、休息の時間ともなった。
自分の前に誰がいて、後に誰がいるかなど、覚える必要がない。ただ前の人が終われば、自分の番になるだけ。
だがこのシンプルな方式の中でも、フランスでは頻繁にあるが、日本ではあまり見かけない習慣があるのだ。
スーパーのレジに並んでいると、「どうぞ、先に行って」と、前の人から順番を譲られることがある。これは珍しくはなく、日常でよく見かける光景である。優しさにあふれていて素敵だなとは思うものの、どうしてそんなことをするのだろう、順番は順番ではないのか? といった疑問が残っていた。
「長年の疑問」が解消した瞬間
そんなある日のこと、私にこの疑問を解消するチャンスがやってきた。
ある日、私が夫とスーパーのレジに並んでいた際、夫が私たちの後に並びにやってきた40代くらいの男性に、
「お! 先にどうぞ、どうぞ」
と言い順番を譲ったのだ。
男性は笑顔で、
「あぁ~、ありがとう!」
と、私たちの前へ入った。彼らにとってはごく自然なことで、スムーズである。
私はここで、長年の疑問を解消すべく、夫に質問をした。
「どうしてあなたはさっき、あの人に順番を譲ったの? いや、責めているわけではなくて、純粋に知りたいだけなのよ。日本では、あまり見ない光景だなと思って」
こんな質問をされるのは、珍しいことだろう。しかし夫は、私が日本との違いを知りたがっているとなると、張り切り出すのだ。
今回も例に漏れず、ニコッと微笑んだ後、うれしそうに答えてくれた。
「彼は、サンドイッチと飲み物のみを持っていただろ? それに比べて僕たちは、カートにたくさんの商品を入れて待っている。サンドイッチと飲み物の会計なんて、10秒もあれば終わるだろう。それなら、先に通してあげたって、僕たちにはたいして変化はない。それに、サンドイッチと飲み物のみという様子を見ると、きっと仕事が長引いて昼食をとる時間が短くなってしまって、慌ててお昼を済ませようとしているのかもなって、そんなことも想像するんだよね。少しでもその助けになれたなら、うれしいじゃないか」
私は気づいていなかった。後ろで順番を待っている人が、どれくらいの量の商品を持っているか、何歳くらいのどんな人か、そんなことを気にかけたことはなかった。
私はここで、ハッとした。私はあの並ばない待合室でも、そこで待つ人がどんな人なのか、見ていなかったのだ。
待合室での「並ばない方式」の順番待ちも、スーパーのレジでの「並ぶ方式」の順番待ちでも、私とフランス人たちでは、見ているところが違った。

