公共交通機関では妊婦に席を譲るべきなのか。フランス在住14年で8人の子育てワーキングマザー、トレオレル美智子さんは「フランスではそんな議論はおきない。妊娠時に私が電車に乗ると、6人の乗客が同時に『自分が席を譲る』と主張し、15秒ほど議論していた」という――。

※本稿は、トレオレル美智子『フランス人の気楽な働き方全力の休み方』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。

通勤中にお腹に触れる妊婦
写真=iStock.com/ljubaphoto
※写真はイメージです

日本では妊婦に席を譲らない理由がある

日本でよく目にする、妊婦さんに、席を譲るのかどうかという話題。ネット上の掲示板でもこの話題はよく上っており、私はこの話題を見かけるたびに、「実際にみんなはどう思っているのだろう」と、全コメントを読むようにしている。コメントは、毎回多岐にわたっている。

どうやら日本では、これに関する答えは出ないままのようである。

妊婦さんからの「なぜ譲ってくれないのか」と言う声に対しては、

「妊婦だけでなく、会社で一日仕事してきてクタクタに疲れている人にも、座る権利がある」
「譲らないで座っている人だって、もしかすると目に見えない持病を抱えている人かもしれないのだから、譲らないことが悪いというわけではない」
「座っている人は、体調不良かもしれない」

といった、妊婦さん以外にも、席を必要としている人がたくさんいるのだからという声がある。

他にも、「妊婦は、譲ってもらって当たり前といった態度が気に障るから、譲りたくない」と言う声もよく見かける。

このようにネット掲示板では、毎回、妊婦に席を譲るか譲らないかについてさまざまな意見がやりとりされている。

フランス人は、妊婦に全力で席を譲る

一方、フランスでは、この点はまったく複雑化していない。

私がフランスで妊娠中、電車に乗ったときのこと。ドアが開いて車内に足を一歩踏み入れた瞬間、ドアの近くに座っていた人たちどさっと6人が、同時に立ち上がった。

そして、その場でその6人が、誰が実際に席を私に譲るのかという話し合いを15秒ほどし、「自分が譲る」と最後まで言い切った1人が私を呼び、座らせてくれた。

いつも、このように妊婦が電車に乗り込んだという時点で大注目になるので、電車に乗るのがちょっと恥ずかしかったほどだ。

またこんなときもあった。

ある日の電車は、いつもより混雑していた。そのため、立っている人が多く、妊娠中である私が乗り込んだことに、座っている人たちは気がつかなかった。私はそのまま立ち続けていようとしたのだが、私の隣にいた、私と同じく立っている人が、近くの座っている乗客に、

「すみません、妊婦さんが車内におられます。席を譲ってあげてくださいませんか?」

と声をかけてくれた。

その声をかけられた人は、飛び跳ねるかのように驚いて、

「あら! ごめんなさい。気がつきませんでした。すぐにお座りください。本当に、すみませんでした」

と言いながら私に席を譲ってくれた。

そんなに謝られると、ただ電車に乗っただけの私のほうが申し訳ない。声をかけてくれた人、席を譲ってくれた人、2人に何度もお礼を言いながら席に着いた。

電車の中だけではない。クリニック・役所・お店の待合室、どこへ行っても、椅子を譲られる。椅子がなければ、そこにいる誰かが椅子を探しに行ってくれ、椅子を運んできてまで私を座らせてくれる。