名古屋圏で「通勤60分」は致命的

桃花台ニュータウン計画人口は約5万4000人と試算されたが、年を経るごとにそれは下方修正を続けた。桃花台に限らずニュータウンの計画人口は過大に見積もられていることは珍しくないので、それだけで桃花台ニュータウンを失敗と断じるわけにはいかないが、明らかに桃花台ニュータウンの計画は迷走していた。それを如実に感じさせるのが公共交通の整備だった。

桃花台ニュータウンは通勤・通学の足を担うにあたり、ピーチライナー(桃花台新交通桃花台線)と呼ばれる新交通を整備した。ピーチライナーは地元自治体の小牧市が大株主として出資した第3セクター運行することになった。

桃花台ニュータウンの住民は名古屋市へと通勤する人たちが多く、ニュータウン内に所在する桃花台東駅・桃花台センター駅・桃花台西駅の3駅から名古屋市中心部まで鉄道を使って移動するには、西端の小牧駅まで乗り、そこから名鉄小牧線に乗り換えて上飯田駅で下車し、上飯田駅から約800メートル離れた名古屋市営地下鉄の平安通駅まで歩き、平安通駅から名古屋市営地下鉄名城線に乗車しなければならない。

これらの通勤ルートをたどると、乗り継ぎの手間もさることながら所要時間は60分以上もある。名古屋圏において、通勤時間60分は致命的なマイナスといえる。これは小牧市がピーチライナーの大株主だったこととも無関係ではないだろう。名古屋までピーチライナーを直通させることも物理的に不可能ではないが、それだと大株主・小牧市が出資する意味合いが薄まってしまう。

わずか15年で「負の遺産」に

2003年3月、上飯田駅と平安通駅を結ぶ地下鉄上飯田線が開業したことで約800メートルの徒歩移動は不要になったが、それでも乗り換えの手間が面倒であることに変わりはなかった。そうした不便を解消しようと、住民たちは桃花台バス運営会を結成し、2002年に別のバス会社に委託する形でニュータウンと春日井駅とを結ぶ路線バスの運行を開始。

この路線バスの運行は、ピーチライナーが廃止される決定打になった。こうした経緯をたどり、ピーチライナーは2006年10月に廃止された。

高架線や駅舎などは、撤去費用も莫大になるとの理由から廃止後もそのまま放置された。筆者は2023年にピーチライナー全線を踏破したが、大部分の区間で鉄道遺構は残されたまま放置されていた。

ピーチライナーの残骸
撮影=小川裕夫
※わずか15年で廃止になったピーチライナーの残骸(2023年3月)
廃止後も撤去されないまま放置された駅舎
撮影=小川裕夫
※廃止後も撤去されないまま放置された駅舎(2023年3月)

全国各地に誕生したニュータウンを取材してきて思うのは、まちびらきの時点でニュータウンの将来を予測することは難しいということだ。計画時は曲がりなりにも官民が期待を寄せ、転入してくる住民たちも新生活に胸を躍らせている。

建物や街のそこかしこには最新鋭の設備などが設置され、それらも近未来感を高めて輝かしい日々を演出する。しかし、月日の経過とともに新生活の期待感は色褪せ、いつの間にかどこにでもあるような街になっていく。