それでも指名したワケ
佐々木を獲得するために、ソフトバンクは特例的にポスティングでのMLB移籍を認めるのではないか、との見方もあったが、筆者はそうは思わない。ソフトバンクは、佐々木が入団した暁には、活躍次第ではこれまでのNPB選手の年俸を大きく上回る年俸を用意する意思があったのではないか。端的に言えば、MLBに匹敵する待遇を用意することで、佐々木を日本につなぎとめようとしたのではないか。
2005年にソフトバンクがダイエーからホークスの経営権を買収した際に、孫正義オーナーが考えたのは「NPBをMLBに匹敵するプロスポーツにする」ことだった。MLBではコミッショナーが先頭に立って、放映権やライセンスなどの巨大ビジネスを次々とまとめている。
これに対しNPBは非常勤のコミッショナーが実権を持たず、12球団が個別にビジネスを展開している。これでは大きなスケールメリットを得ることはできない。平均観客動員数では差がないNPBとMLBだが、選手の年俸では数倍以上の差がついていた。
「MLBとの連携強化」のカードに
孫オーナーはNPBを改革するため、放映権などの主要なビジネスを個別の球団ではなく、NPB全体でまとめるビジネスモデルを提案した。しかしセントラルリーグ球団が強硬に反対したため、パシフィックリーグ6球団だけが「パ・リーグマーケティング(PLM)」を設立した。
ソフトバンクはMLBに倣ってマイナーチームを拡充し、3軍、4軍を設立。NPB球団でありながら、MLBに近いファームシステムを構築してきたのだ。また、MLBとの連携にも積極的で、本拠地みずほPayPayドーム福岡での試合では毎年6月に「AMERICAN BASEBALL EXPERIENCE」というイベントを催している。
MLBも2023年のWBC以降、日本のマーケットを強く意識し、ファンの醸成に努めているが、ソフトバンクはこれに呼応してMLBとの連携を強めている。いわば佐々木麟太郎の獲得を「MLBとの連携強化」のカードに使うという意図もあったのではないか。
ソフトバンクは、2018年MLBドラフト1巡目(全体8位)でアトランタ・ブレーブスに指名されたカーター・スチュアート・ジュニアが契約面でもめた際には、オファーを出して外国人選手として契約した実績がある。佐々木に関しても獲得に向けて一定の手応えがあったのではないか。
佐々木は7月19日、ソフトバンクのオファーを断り、マーリンズ入りを表明した。では、彼がMLBで活躍する可能性はどれくらいあるのだろうか。

