️4割の人が「バニラ味との違いが分からない」と回答

商品開発戦略の立案に携わったマーケティング本部の藤江亨さんに尋ねると、苦笑いを浮かべて開発当時の「誤算」を振り返った。

「そうなんです。実は、ザ・ミルクの開発時に消費者意識調査を実施したところ、約4割が『バニラ味とミルク味の違いが分からない』と回答しました。この結果は私たちには衝撃でした。というのも、私たちには『バニラ味とミルク味はまったく違うもの』という前提があったからです。開発メンバーも全員が『別物でしょ』と考えていました。おそらく、私たちは年がら年中、アイスクリームに向き合っているので、知らず知らずのうちに消費者の意識と乖離していたのだと思います」

ザ・ミルクとバニラの「被り」は、開発時には不安材料として顕在化していた。ならば、なぜ商品化に踏み切ったのか。その裏には、ハーゲンダッツが発売以来、貫き続けてきた、こだわりがあった。

東京都目黒区の本社オフィスで取材に応じる、「ザ・ミルク」開発販売戦略担当者の藤江亨さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
東京都目黒区の本社オフィスで取材に応じる、「ザ・ミルク」開発販売戦略担当者の藤江亨さん

「原材料の生乳はハーゲンダッツの“背骨”です。1984年の日本上陸以来、根釧地区の上質でコクのある生乳にこだわり続けてきました。まさに、ハーゲンダッツのブランド価値の中枢といっても過言ではありません。その生乳を思いっきり味わってもらえる商品をお届けしたいというのが開発当時の思いでした」

勝算もあった。2002年を皮切りに、これまでもハーゲンダッツは定期的にミルク味の商品を発売し、一定の成果を挙げていた。2020年にはミルク味のミニカップ「リッチミルク」を一時、定番商品化している。

ミルク味を特に好む消費者層の存在はすでに掴んでいた。あとは、バニラとの明確な差別化を図り、いかに今まで以上に幅広い層に商品を届けるか。それが商品開発における最大の難関だった。

️濃厚さと後味すっきりを両立させる「調味料」

差別化を図るうえで肝となるのは、やはり「味」だ。

ハーゲンダッツは「ミルクの濃厚さとすっきりした後味」を追い求めて、原材料レベルから検討を始めた。

こだわりの生乳を存分に感じられる「濃厚さ」と、その味を引き立たせて次の一口を誘う「すっきりした後味」という、相反する要素の両立が目標だった。天秤のバランスを取るかのような開発工程を、藤江さんは「我が事ながら難しいお題を設定してしまったなと」と振り返る。

試行錯誤が続くなか、散らばった点と点を一本の線で結んだのが「塩」だった。生乳、卵、砂糖の主原料に塩を加えると、一口目の圧倒的なミルク感が、軽やかな後味に滑らかに繋がる。芳醇な香りとコクが後を引くバニラとは、まったく異なる味わいだった。

「バニラ」の商品写真
提供=ハーゲンダッツジャパン
「バニラ」の商品写真

さらに興味深い点がある。実はザ・ミルクよりもバニラのほうが「乳脂肪分」が多いのだ。

「成分表を確認していただけると分かりますが、乳脂肪分はザ・ミルクよりもバニラのほうが高いんです。生乳の成分を多くすると濃厚さは高まりますが、その分、味の輪郭も濃くなり、ミルク感が印象として残りにくくなります。ザ・ミルクでは単に生乳を多くするのではなく、ミルク感を喫食者に届けるための「配合の黄金比」を追い求めました」